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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (9)
〜 実験結果との比較とまとめ 〜

4H-SiCと2H-GaNのフランク型積層欠陥とフランク型部分転位の構造を理解するために、長々と考察しました。フランク型積層欠陥を、欠損したフランク型積層欠陥と余剰なフランク型積層欠陥と2種類に分類しました。次に、ショックレー変位が無いフランク型積層欠陥とショックレー変位を伴っているフランク型積層欠陥に分けて、それぞれの積層構造と積層欠陥の縁に付随するフランク型部分転位のコア構造について考察しました。そして、ショックレー変位を伴っているフランク部分転位のコアでの変位では、通常のショックレー変位とは少し異なるショックレー変位があることがわかりました。それらは、四面体が平行移動するようなショックレー変位と、 平行移動後四面体が向きを変える少し複雑なショックレー変位だということがわかりました。

4H-SiCの考察されたフランク型積層欠陥の構造のまとめと、実験で得られたPLスペクトルとの比較について整理します。

図9-1 この連載で考察した各種4H-SiCのフランク型積層欠陥の構造と、実験によるPLスペクトルのメインピークの位置。

*Kamata et al., Appl. Phys. Lett., 97 172107 (2010)

**Tochigi et al., Philos. Mag. 97 657 (2017)

積層欠陥のPLスペクトルを実験的に測定したという論文はそれなりの数が出ていますが、積層欠陥の断面をTEMやSTEMで観察し積層構造を解析したという論文になると数は絞られています。PLスペクトル測定が行われた積層欠陥は、複数枚のショックレー型積層欠陥が重なったものや、フランク型積層欠陥の近傍に複数枚のショックレー型積層欠陥が付随しているもの、つまりバーシェイプ欠陥と呼ばれているものが多いです。ショックレー変位付きのフランク型積層欠陥はバーシェイプ欠陥の最も簡単なタイプとも考えられます。また、バーシェイプ欠陥の変位ベクトルを求めて考察整理している報告は現在までありません。バーシェイプ欠陥の変位ベクトルを実験的に求めて系統的にバーシェイプ欠陥を整理することは必要かと思われます。

キャロットに付属しているフランク型積層欠陥とフランクの部分転位に、ショックレー変位を伴っているものが報告されています。単体のショックレー変位付きのフランク型積層欠陥は4H-SiCでは稀な存在かもしれませんが、まだ観察例が少なく、どれくらいの頻度で現れるかも含めて、整理がついておらず、系統的に整理するのには、もっと多くの4H-SiCのショックレー変位付きのフランク型積層欠陥、バーシェイプ欠陥の解析が必要だと考えられます。解析例が増えて整理されると、それぞれの欠陥の発生原因は何かを調べることが次のステップですが、同時に調べることは重要だと思います。

フランク型積層欠陥や、バーシェイプ欠陥は、単結晶成長時にすでに導入されています。単結晶成長時にどのようなメカニズムでこのような欠陥が導入されるのかはまだ調べられていないと思います。これらも実験的に調べて整理考察する必要があると思います。また、放射光トポグラフ法の利用(9)の解説で見られるように、エピ層成長時に突然、三角形状のフランク型積層欠陥が現れているように見えている例が結構あります。これについてもその原因は今のところ解明されていないと思います。調べられていない事柄、などがたくさん残っています。これらのことを調べるには、例えば放射光トポグラフ法で欠陥の発生位置を特定し、FIBを用いて切り出しTEM、STEMで解析すると、発生のメカニズムについて色々と理解され整理されるかもしれません。FIBで切り出す際には、正確な位置で切り出す必要があり、実験遂行上の工夫が必要だと思います。TEMで系統的に解析すると、発生メカニズムについて、今までに知られていない、新しい知見が得られる可能性は大きいと思います。知見が得られると対処法が提案可能かもしれません。そして、それらは単結晶作製技術、エピ層成長技術の改良に寄与することができるかもしれません。

4H-SiCの異なる各層を欠損させたり、異なる層間に新たに四面体層を挿入させたりして各種のフランク型積層欠陥の構造を考察しても、Zhadanovの表記法で積層欠陥の周りの積層構造を記述すると、同じ積層のものが現れます。長々と説明しましたが、異なる作製の仕方を考察しても、Zhadanovの表記法では同じ表記のものに収束し、各種フランク型積層欠陥は簡単にいくつかのパターンに整理されることがわかりました。これはこの連載の解説文の結論の一つです。どの四面体層が欠落したのか、どの層間に四面体層を挿入したのかを知るにはフランク型部分転位の断面STEM像での観察で解析できると思います。

今回の考察は単純な幾何学的な考察なので、フランク型積層欠陥の縁にあるフランク型部分転位の周りの歪みエネルギー自体は考察していません。また、積層欠陥エネルギーなども考慮していません。エネルギー的考察が加えられれば、現れにくい構造、現れやすい構造の考察が可能になると思います。それらを考察するには大規模な第一原理計算などが必要になると思います。

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