はじめに
連載の“その(7)”まで、4H-SiCのフランク型の積層欠陥の構造について考察しました。連載(8)では結晶構造が似ている2H-GaNのフランク型積層欠陥とフランク型部分転位の構造について考察し、4H-SiCの場合と比較します。比較により、4H-SiCのフランク型の積層欠陥と2H-GaNの場合の特徴が考察可能です。考察のやり方は4H-SiCの場合と同じなので、簡潔に示します。
2H-GaNの結晶構造
2H-GaNも、4H-SiCの場合と同じように、四面体の積層構造を考えます。四面体の中心にGa原子が位置していて四面体の4隅にN原子が位置している四面体を考えます。2H-GaNの完全結晶の積層状態は下から上方向つまり[0001]方向に向かって四面体層が…AC’AC’ …と積層していると記述することができ、四面体層2層で1ユニットセルを構成しています。この状態を図8-1に示します。
Lahnemann et al.による2H-GaNの積層欠陥のレビューペーパー( J. Phys. D: Appl. Phys. 47 423001 (2014)) によると、2H-GaNの基底面の積層欠陥は、I1, I2, Eの3つのタイプに分類されています。I1はショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥で、欠損型と定義されています。I1のIはイントリンシック型(空孔型、欠損型)を意味しています。I2は基底面転位が分解して形成されたショックレー型の積層欠陥そのものです。そしてEはショックレー型変位の無いフランク型積層欠陥で、四面体層が1枚余分に挿入されたものを想定しています。Eはエクストリンシック型 (格子間原子型、 余剰型)と定義されています。Lahnemann et al.の論文には、いくつかの他の研究者のI1 とI2のPLスペクトルの発光エネルギーの報告値が示されていますが、Eについての報告は少ないようです。つまり2H-GaNでは、フランク型積層欠陥は、大部分ショックレー変位を伴う欠損型だということになります。4H-SiCでは、ショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥単体では、キャロットに付随するものが報告されていますが、ショックレー変位を伴わない純粋なフランク型積層欠陥のものが多いのではと思われます。4H-SiCのバーシェイプ欠陥まで考慮するとショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥はそれなりに存在すると推察されます。報告例の統計がないので断定はできません。しかしながら、2H-GaNの場合、I1はそれなりに報告されているようです。この違いについて考察します。
2H-GaNでのショックレー変位の無い欠損したフランク型積層欠陥
ショックレー変位を伴わない欠損したフランク型積層欠陥の作り方を、連載”その(3)”の図3-4で示しました。この作り方に従ってショックレー変位のない欠損したフランク型積層欠陥の構造モデルを2H-GaNの結晶構造で作ることを試みましたが、残念ながら作ることができません。このことが、2H-GaNではショックレー変位付きの欠損したフランク型積層欠陥の報告例が多いことの理由だと考えられます。それでは、ショックレー変位を伴わない欠損したフランク型積層欠陥は2H構造では作れないのか?というとそういうわけでもないとも考えられます。ショックレー変位なしの欠損したフランク型積層欠陥は以下の方法で可能かと考えられますが、以下の話は余談的な考察かもしれません。
消去した四面体層の直上と直下の両方の四面体層に同時にショックレー変位を与えると、この2つの層は整合性よく繋ぐことができます。そして、このやり方でショックレー変位を伴わない欠損したフランク型積層欠陥を作りことができます。このやり方を図8-2に示します。このやり方は図3-3(b)ですでに示したやり方で、図3-4のやり方よりも、さらにプロセスを増やした作り方です。1層のみのショックレー変位ではなく、2層の四面体層にショックレー変位を施すことになり、作成のプロセスが増えるので図3-4のような場合よりもこのような欠陥は起こりにくいのではと思われます。
図8-3では各積層構造に作り方を示した便宜上の名前をつけています。1AC’→C,C‘→Bの1は図8-2の作り方で作ったことを示していて、AはA層を消去し、C’→Cは消去したA層の直上のC’層をC層に変位させる操作、C‘→Bのアンダーラインは消去したA層の直下のC’層をB層に変位させる操作を意味しています。赤い横線は消去した四面体層の位置を示しています。図8-3の(a),(b)のどちらも、Zhadanovのノーテーションでは…,1,1,4,1,1,…と示すことができます。そして、このショックレー変位のない欠損したフランク型積層欠陥は、作成工程が増えるので発生しにくいと推察されます。
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