はじめに
この連載記事は、半導体中の格子欠陥の解析評価に興味を持つ人を対象に書いています。前回の連載で、ショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥を考察しました。この積層欠陥は、純粋なフランク型積層欠陥にショックレー型積層欠陥が張り付いている構造だと考察しました。これらの複数枚の積層欠陥の縁には、それぞれ純粋なフランク型部分転位成分とショックレー型部分転位成分が存在すると考えられます。それらの部分転位が少し距離をおいて存在していれば、フランク型部分転位とショックレー型部分転位が独立して存在していることも考えられます。一方で、これらの部分転位が合体したような場合も考えられます。
キャロットと呼ばれるエピ欠陥に付随するフランク型積層欠陥は、ショックレー変位を伴うフランク型積層欠陥です。このフランク型積層欠陥についてはいくつかの論文で観察結果が発表されていています。これらのキャロットの観察結果では、フランク型積層欠陥の縁で、純粋なフランク型部分転位とショックレー型部分転位が合体したような部分転位が観察されています。これはキャロットに付随するフランク型積層欠陥に特有の構造かもしれません。バーシェイプ欠陥の縁もそのような構造が観察されるかもしれませんし、そうではなく、それぞれの部分転位が独立に存在していることも考えられます。両方の場合があると考えられます。これらのことは観察報告例が少ないので明確ではありません。この回では、実際に観察されているフランク型部分転位とショックレー型部分転位が合体した場合の部分転位の構造について考察します。ただし部分転位のコア構造自体はリコンストラクションを引き起こしていると考えられるのでコア構造自体の考察ではなく、これらの部分転位の周りの変位の構造について考察と考えてください。
ショックレー変位付きのフランク型部分転位の周りの変位は3次元的な変位です。c軸方向にはc/4程度の大きな変位を持っていますが、その3次元的な変位の2次元成分を見ると、ショックレー変位と同じ方向、同じ大きさの変位を伴っています。しかしこのショックレー変位は、連載その(1)の図1-4と1-5で示されている通常のショックレー変位のリストには示されていません。このショックレー変位付きフランク型積層欠陥の構造を考察するために、下から上方向に作っていく場合と、上から下側方向へ作っていく場合を比較して、フランクの部分転位の周りの変位の状態を考察します
フランク型積層欠陥を上側から下方向へ作る
連載の“その(4)”の図4-3では図4-1(a)のやり方でフランク型部分転位を作った結果を示しました。図4-1(b)のように上側結晶を固定するやり方でもフランク型部分転位やフランク型積層欠陥を作ることは可能です。上側結晶を固定して作った欠損したフランク型積層欠陥の構造を図5-1に示します。
図5-1は積層欠陥の上側の結晶を固定して、積層欠陥の下側がどのように変位したかを示しています。連載その(2)で議論したように図5-1のA, B, Cの各層の名前を付け替えて、積層欠陥の下側の積層の順番を図4-3と同じにすることができます。各層の符号を付け替えると、(k)2AC’→A’は(e)2A B→Aと同じ構造であることがわかります。 (n)2A’ B→Aと(h)2A’ C’→A’は同じものであることがわかります。さらに(l)2BA→Bと(f)2BA’→C’、 (o)2C’A’→C’と(i)2C’ A→Cは同じ構造であることがわかります。また、(m)2B A→B’は(b)1B A→ B’そのもので、(p)2C’ A’→Cは(d)1C’ A’→Cそのものです。これらより図5-1で現れたフランク型積層欠陥の積層構造は既出のものと同じであると考えます。
図4-3の中で(g)2BA’ →Bと(j)2C’A→ C‘の構造に対応するものは、図4-1(b)のやり方では作れず、図5-2のような操作で(q),(r)の積層構造を作っています。消去層の直上の四面体層にショックレー変位を導入し、さらに下側結晶全体を同様に変位させて作ります。
コメントを残す