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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (3)
〜 4H-SiCの欠損したフランク型積層欠陥 〜

欠損したフランク型積層欠陥に関する考察。1層のみにショックレー変位を与える構造。

欠損したフランク型積層欠陥を作ることを考えます。最初に格子欠陥が無い完全結晶の4H-SiCの積層構造から(0004)面を1枚消去します。消去する(0004)面の一例を図3-2に示します。この層の構造は、プライム無しの四面体ですが、プライム付きのマークの四面体は左右が逆転します。ここではプライム無しの四面体層を例として考えます。

図3-2 消去する(0004)面の一例。(0004)面は四面体層1層から構成されている。

p層のC原子は、上の層のP層の四面体の底面に位置しているC原子と消去する四面体Q層の頂点のC原子と同じ原子です。消去するQ層と上のP層とでC原子を共有しています。また消去する四面体層の底面のr層のC原子は、Q層とR層の四面体とで共有されています。四面体1層を消去して、P層を下方向に変位させR層を上方向に変位させてP層とR層を接着剤で接着する作業を考えます。これらの作業では各四面体は弾性変形すると考えます。

最初にq層のSi原子層を消去します。次に、P層を下方向にR層を上方向に変位させることを考えます。しかしながら、r層とp層のC原子をc軸方向に沿って変位させても、r層とp層のC原子位置は一致させることができません。R層の四面体頂点のC原子とP層の四面体の底面のC原子を共有させなければ整合性よく積層させることはできません。そこで、r層のC原子と、p層のC原子の(x,y)成分の位置を一致させるように変位させた後、z軸に沿って上の結晶を下方向に変位させ、下の結晶を上に変位させて接着させることを考えます。この時の、r層やp層の変位を考えます。

図3-3(a)にr層のC原子層をp層のC原子位置へ変位させるやり方の例を示します。黒丸のC原子層全体を赤矢印のd1の方向と距離を (x,y)平面上でシフトさせると緑丸のC原子の直下に持ってくることができます。d1のみではなく、d2、またはd3を選んでもr層のC原子をp層のC原子の直下にシフトさせることができます。このd1d2、またはd3はショックレー変位そのものです。

図3-3 消去するQ層を[0001]方向から見た図。黒丸はr層のC原子。緑丸はp層のC原子。(a) r層のC原子をp層のC原子位置へ変位させるやり方の例。(b) r層とp層の両方のC原子層を変位させて一致させるやり方の例。

つまりR層にショックレー変位を加えて、その後P層を真下に変位させR層を真上に変位させ、R層とP層のC原子位置が一致させると、R層の四面体の上にP層の四面体を整合性よく積層させることがきます。

同様な操作ですが、図3-3(a)の緑色のC原子を矢印と逆方向に変位させることも考えます。つまり、P層をショックレー変位させて、R層とP層を積層可能な状態にすることでも整合性よく積層させることが可能です。実際の構造では、p層、r層、両方のC原子が変位して両方の変位を足し合わせるとショックレー変位1回分の変位となりますが、話を簡単にするために、どちらか片方のみショックレー変位を一回行っているモデルを考えます。図3-3(b)は、r層とp層の両方がショックレー変位している例です。この場合、ショックレー変位が2回発生しています。作成プロセス数が多くなり話が複雑になるので、ここでは取り扱わないことにします。

図3-4は、消去する層の上の層か、あるいは下の層をショックレー変位させ、フランク型積層欠陥を作る操作をわかりやすく横から見た図です。この図3-4(a), (b)では、フランク型積層欠陥を作製する操作の最終段階を示しています。あとは、作製途中の積層欠陥の上側の結晶を下方向へ変位させ、下側の結晶を上方向へ変位させると、フランク型積層欠陥が完成する状態です。この上方向と下方向の変位の操作はc軸に沿った変位の操作で、(x,y)平面上の変位はありません。上側と下側の完全結晶領域では、各四面体の (x,y)平面上の位置はガッチリと剛性的に固定されていて、c軸方向のみ変位させます。

図3-4 フランク型部分転位とフランク型積層欠陥の構造モデルを作る操作の説明図。Si層を消去した後、(a)R層にショックレー変位を与え、積層欠陥の下の結晶を上方向に変位させ、積層欠陥の上側の結晶を下方向に変位させ、C原子を消去し、フランク型積層欠陥を作る操作。(b) P層にショックレー変位を与えフランク型積層欠陥を作る操作の説明図。

図3-4 (a)のモデルでは消去層直下のR層の1層のみにショックレー変位を与えますが、このショックレー変位はその上の消去層で一旦断ち切られて、ショックレー変位は上側の結晶までは伝搬していません。連載“その(2)”の図2-2や、図2-3では、積層構造に一旦ショックレー変位を与えると、その変位は上の積層構造まで伝搬します、という話でしたが、この図3-4(a)ではそうはなっていません。ということは、フランク型部分転位のバーガース・ベクトルを求めるとR層にショックレー変位を与えたのにも関わらず、この積層欠陥より上の結晶に(x,y)平面上の変位は無いので、フランク型部分転位はショックレー変位を持っていないことがわかります。フランク型部分転位の向きを紙面に垂直で紙面奥方向とすると、バーガース・ベクトルは1/4[0001]のみです。図3-4 (b)の操作でも同様の考察をすることができます。つまりP層にショックレー変位を与えましたが、このフランク型積層欠陥の変位ベクトルやフランクの部分転位にはショックレー変位成分はありません。

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