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コラム 解説

SiCのフランク型積層欠陥 (2)
〜 ショックレー型積層欠陥の記述について 〜

はじめに

この連載記事は、SiCの格子欠陥の解析評価や4H-SiCの結晶構造に興味を持つ人を対象にして書いています。少し詳細な内容を、冗長な文章で記述しています。

前回の文章では、4H-SiCの基底面の積層状態の記述方法について説明しました。この記述方法に従うと積層構造についての記述が簡単になる反面、厄介なことも発生するようです。フランク型部分転位の構造とフランク型積層欠陥について考察することがこの連載の目的なのですが、その前段階として、ショックレー型積層欠陥とショックレー型部分転位がこの記述の仕方でどのように示されるのかについて最初に考えます。

ショックレー型積層欠陥の表記

図2-1 格子欠陥が無い4H-SiCの完全結晶に、ショックレー型部分転位とショックレー型積層欠陥が導入されている状態。

図2-1は、格子欠陥が無い4H-SiCの完全結晶に、ショックレー型部分転位とショックレー型積層欠陥が導入された状態の模式図です。転位の上側には膨張している格子歪、転位の下側には圧縮格子が存在している状態を一例として仮定します。この格子歪は部分転位から離れると減衰してき、ある程度の距離のところで歪がほとんど無い状態を想定します。この部分転位の右側には積層欠陥が存在しているとします。積層欠陥自体は格子歪を伴っていませんが、部分転位の周りの格子歪に起因した結晶格子の変位を伴っています。この変位の方向は結晶を下から上方向に見ていく場合と、上から下方向に見ていく場合は逆方向になります。

この図2-1のショックレー型積層欠陥での四面体の積層状態を模式的に示したのが、図2-2です。

図2-2 完全結晶ABA’C’の積層状態にショックレー型部分転位を導入して積層欠陥を作成した例。B層の四面体がショックレー変位を起こした状態を示している。(a)は格子欠陥が無い4H-SiCの完全結晶状態。(b),(c)B-siteの四面体がショックレー変位を起こしている状態。(b),(c)はそれぞれ同じショックレー変位を表現している。(b)は下から上に四面体の積層を見ていった時の表記。(c) は上から下に四面体の積層を見て行った時の表記。

図2-2(a)は格子欠陥が無い4H-SiCの完全結晶の状態を示しています。下の層から上に向かって四面体層ABA’C’の周期的積層構造が示されています。このうちB-siteの四面体層がショックレー変位を起こす状態を考えます。図2-2(a) の赤い点線で示した(0001)面が、すべり変形を起こす“すべり面”です。このすべり面は、四面体中心のSi原子と四面体の底面の3つのC原子間のボンドに位置しています。

図2-2(b)はすべり変形を起こしてショックレー型積層欠陥が形成された構造を示しています。この図では下側から上方向に向かって積層の構造を見ています。赤い点線を描いている図2-2(a)の四面体Bは図2-2(b)では四面体C’になっています。赤い点線を描いている四面体のすべり面から上にあるSi原子とC原子は、赤矢印で示しているように右方向へ“ひとます”変位しています。この変位は、B/A →C’/Aの変位です。この変位は図1-4に示すショックレー変位です。すべり面直下のC原子は変位しません。この変位した四面体C‘よりさらに上側の四面体層も同様にすべて右に“ひとます”変位しています。このショックレー型積層欠陥より上側ではABA’C’だった積層構造が、BCB’A’になっています。ショックレー型積層欠陥より上側の各四面体層の間には相対的な位置の変化は無いので、B/A →C’/Aの変位に連動してひとますぶん全ての四面体層が同様に変位します。また、この連載”その(1)”での図1-3、図1-4で書きましたが、ショックレー変位を起こした層の四面体は、プライムなしの四面体がプライムつき四面体へ変化します。あるいはプライムつきの四面体の場合はプライムなしの四面体へ変化します。ショックレー変位を起こした四面体の直上の四面体を含む全ての上側の四面体は単に平行移動するので、プライム無し四面体はプライム無しの四面体、プライム付き四面体はプライム付きへ変位します。

図2-2(c)図2-2(b)と全く同じ構造を示しています。ただし、今度は、同じ積層欠陥を上から下へ見て行きます。積層欠陥の上側は完全結晶領域なので、上から下へ向かって周期構造C’A’BAのアルファベットのノーテーションを与えています。上から下に向かって見て行って、積層欠陥と遭遇します。四面体はA’/B →A’/B’の変位を起こしていることがわかります。この変位は図1-5に示すショックレー変位です。さらに積層欠陥をまたぐと積層欠陥より下側ではすべての四面体が左方向に“ひとます”変位していることがわかります。周期構造はB’C’ACになっています。つまり同じショックレー型積層欠陥でも、下から上へ見て行く場合と上から下へ見て行く場合は異なるノーテーションの表記になってしまうことがわかります。

図2-1ではこのことを分かりやすく図で示しています。積層欠陥の下側は乱れの無い完全結晶領域で、また積層欠陥の上側も乱れの無い完全結晶領域です。ここで下側から上方向に積層構造を見ていくと、積層欠陥をまたいだ瞬間、下側を基準にしているので上側の結晶は右側に変位します。同様に、上から下側に結晶構造を見ていくと積層欠陥をまたいだ瞬間、上側を基準にして左側に変位します。これらのことは、意外と理解されていないように思います。後の連載で、下から上方向に見る場合と、上から下方向に見る場合を、比較して欠陥構造を考察することを行いますので、ここで、ショックレー型変位をモデルを一例に、下から上方向に見る場合と、上から下方向に見る場合について説明しました。

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