ショックレー変位のルール
欠陥がない4H-SiC完全結晶を考えます。A-site四面体の上にのっているB-site四面体がショックレー型部分転位によって変位した例を考えてみます。Aの上に積層可能な四面体はBまたはC‘の2種類のみなのでB-site四面体から変位可能なのはC‘-site四面体のみです。このことより理解できるのは、B/A→C’/Aの変位は可能ですが、B/A→C/A、B/A→A/A、B/A→A’/Aは不可能ということです。つまりショックレー変位には可能な変位とそうではない変位のルールが存在します。それぞれのショックレー型の変位が可能な例を整理すると図1-4のようになります。
図1-4は下の層の四面体をがっちりと固定して、上の層の四面体にショックレー変位を加えた場合、許される変位を整理した表です。この表ではプライムがついていない四面体はショックレー変位によりプライム付きの四面体に変位し、プライム付きの四面体はプライム無しの四面体に変位することがわかります。このような変位のモデルは、SiCの格子欠陥を議論する論文には度々出てきます。
図1-5は、ちょっと視点を変えて上の層の四面体をがっちりと固定して、下の層にショックレー変位を導入した場合の変位のルールを示しています。
欠陥が無い完全結晶ABA’C’の積層構造でショックレー変位を考えると図1-4の B/A → C’/Aのショックレー変位と、図1-5のA’/B → A’/B’のショックレー変位は同じショックレー変位を表現しています。完全結晶の構造を想定して、下の層の四面体を固定して上の層の四面体にショックレー変位を起こさせる状態を表現した場合と、上の層の四面体を固定して下の層の四面体にショックレー変位を起こさせる状態を表現した場合とでは、同じ欠陥の構造を表現しているのにもかかわらず一見すると異なるショックレー変位のような表記になっています。論文や教科書などでは、下の層、つまり土台を固定して、その土台の上にいろいろな変位や積層の乱れを組み立てて議論していることが一般的だと思います。今回、フランク型積層欠陥の構造を議論する際には、下の層を固定して上の層に変位を与える場合と、上の層を固定して下の層に変位を与える場合との両方で考察を行うので、両方の場合を述べました。この連載の次の回では、この表記のルールに従ってショックレー型部転位とショックレー型積層欠陥がどう表記されるかを詳しく考えてみます。
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