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コラム 解説

4H-SiCの積層欠陥について (3)
〜 ショックレー型とフランク型積層欠陥の区別 〜

“4H-SiCの積層欠陥(1)”ではショックレー型積層欠陥が1枚導入された場合について、そのショックレー型積層欠陥がいくつかに分類されることを述べました。“4H-SiCの積層欠陥(2)”ではショックレー型積層欠陥が複数枚重なっているときに回折的手法では見えなくなることが起こることがある特異な現象などについて述べました。”4H-SiCの積層欠陥(3)”ではフランク型積層欠陥とショックレー型積層欠陥の区別について述べます。エピ層中に観察されるフランク型積層欠陥は最初から基板中に存在していたものが、エピ層に引き継がれさらにエピ層成長中により大きく拡大したものと考えられています。フランク型積層欠陥は概して複数枚のショックレー型積層欠陥がおまけとして付随していて、実態はフランク+複数枚ショックレー型とみなせるものがよく観察されます。フランク型とショックレー型のいずれもパワーデバイスにはよくない影響を与えるのでプラクティカルな視点からは、ことさら区別する必要はないといわれそうですが、積層欠陥の発生の原因を調べ積層欠陥密度を下げようとする立場の研究を行うには、きちんと同定したほうが良いように思います。ここではフランク型とショックレー型積層欠陥の区別について述べます。

ショックレー型とフランク型の区別

4H-SiCのエピ層部中の積層欠陥を解析した論文は各種雑誌で見ることができます。そのうちの一部の論文では顕微PL像、PLスペクトル、積層欠陥の断面の電子顕微鏡高分解能像による、ABA’C’などと表現している積層の順番の解析の実験結果を載せ、積層欠陥を同定しています。そして、解析の結果、これはショックレー型の多層の積層欠陥が組み合わさった積層欠陥だと同定したりしています。ショックレー型だと主張している場合はフランク型を含んではないと理解してよいでしょう。

多分、経験的知識や他の解析結果との組み合わせや類推でショックレー型だと判定しているのでしょうが、個々の積層欠陥に対してその判断は正しいのでしょうか?PLスペクトルと電子顕微鏡高分解能像による積層の順番の解析のみでは、解析している積層欠陥が複数枚ショックレー型なのかフランク+複数枚ショックレー型なのかの判断はできません。PLスペクトルは積層の順番に依存していますので、PLスペクトルと電子顕微鏡高分解能像による積層の順番の解析結果は単にこの2つの実験結果の紐づけを行っているに過ぎません。観察結果から得られた積層の順番は多層枚ショックレー型積層欠陥を想定したモデルで説明することは可能ですが、同時にフランク型積層欠陥+多層枚ショックレー型積層欠陥モデルでも説明することは可能なので、積層の順番のみを求めてもフランク型かショックレー型を判定することはできません。ショックレー型かフランク型かを証明するには、変位ベクトルRを求めショックレー型の場合それが基底面上に載っていることを証明しないといけません。PLスペクトルと電子顕微鏡高分解能像による積層の順番の解析の実験結果のみでは変位ベクトルRを求めることはできません。Rを求めるにはX線トポグラフ法や透過型電子顕微鏡を用いてgR解析を行う必要があります。“その2”で解説しましたが4H-SiCの積層欠陥にはステルスな積層欠陥が存在しています。ステルスな積層欠陥の場合はgR解析は不可能です。この場合、簡単に判別する方法は、透過型電子顕微鏡を用いて積層欠陥の縁に付属している部分転位のgb解析を行うことです。さらに簡単に判別する方法としては、部分転位部の断面高分解能像を観察して積層欠陥部と完全結晶部で(0004)面が増えているか欠損しているか、同数かを観察することです。(0004)面の枚数に増減があればフランク型かフランク型積層欠陥を含むショックレー型との複合型の積層欠陥ということになります。ただし、この方法のみではフランク型かショックレー型かの判断はできますが、このやり方では変位ベクトルRを決定することはできません。各種雑誌に載っている4H-SiCの論文では、透過型電子顕微鏡高分解能像観察による、フランク型+複数枚ショックレー型の積層欠陥はわりとよく観察されていました。積層欠陥の断面高分解能観察から得られた積層の順番の解析結果のみで、ショックレー型とかフランク型と判別するのは危険です。

放射光を用いたベルクバレットX線トポグラフ法による観察

かつて、パワーデバイスの開発用に多量の4H-SiCウエハを購入し、購入した各社のウエハのうちいくつかは、放射光施設に持ち込み放射光を用いたX線トポグラフで検査を行っていました。放射光を用いたベルクバレットX線トポグラフ法による観察では、ステルスな積層欠陥以外の観察可能な積層欠陥がショックレー型積層欠陥かあるいはフランク型を含む積層欠陥かを簡単に判別することができていましたので、簡単に紹介します。

ショックレー型積層欠陥の縁に付属しているショックレー型部分転位のうち90度部分転位以外の部分転位は転位線に沿って非対称なコントラストを示しています。ウエハ表面に投影した回折ベクトルの向きを反転させると、この非対称コントラストは逆転します。この内容は下記の文献[1]に詳しく説明されています。一方、フランク型積層欠陥の場合、積層欠陥の縁に付属しているフランク型部分転位の非対称コントラストは逆転しません。この内容の詳細は下記の文献[2]に示されています。また、フランク型部分転位の非対称コントラストの付き方から、(0004)面が欠損したものか過剰に存在しているかの判定も可能です。この簡易的なやり方で、X線トポグラフで観察可能な積層欠陥の、フランク型、ショックレー型の同定はは可能です。また、フランク型であると同定された積層欠陥の縁にある部分転位の断面観察試料を作製し、高分解能像観察を行うと、概してフランクの部分転位の近くには複数のショックレー型部分転位が存在しており、フランク型+複数枚ショックレー型積層欠陥がそれなりの数存在していることを確認できます。X線トポグラフ像ではフランク型部分転位のコントラストが強いので、回折ベクトルの逆転によるショックレー型部分転位のコントラストの逆転を覆い隠すように観察され、純粋なフランク型積層欠陥なのか、フランク型+複数枚ショックレー型積層欠陥の区別はつきません。これらを厳密に区別するには部分転位の断面を透過型電子顕微鏡で観察する必要があります。 

  • (1) H. Matsuhata et al., Philos Mag.  94, 1674-1685 (2014).
  • (2) E. Tochigi. et al., Philos Mag. 97 657-670 (2017).

(続く)

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