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コラム 解説

放射光トポグラフ法の利用 (10)
〜 潜傷の観察 〜

潜傷の原因

潜傷は、CMP中にウエハのあちこちに発生しては消失していると書きましたが、ウエハ表面に均質には発生はしないので、偶発的に発生しているのではと考えられます。最も可能性の高い原因は、SiCウエハ端面のチッピングだと考えられています。SiCのウエハは室温では非常に硬くCMPプロセスではダイアモンドを使わないので、CMP中にSiCのウエハ表面に傷をつけるのは、SiCそのものだという考えです。実際にSiCの端面をSEMで観察すると、ウエハメーカーによって端面の仕上げ方が異なっていました。また、同じウエハーメーカーでも生産されたロットによって端面仕上げにかなりの違いがありました。大袈裟にいうとゴツゴツとした端面や、なめらかな仕上げのものも観察されました。なめらかと言ってもどの程度のなめらかな状態だとチッピングが発生しないかも不明です。ウエハの端面の研磨、いわゆるベベリングに注意を払い、端面研磨の状態と潜傷の発生確率の関係を調べる必要があるとも考えられます。べべリングの評価がどの程度行われているのか不明です。一方で、端面のチッピングのみではなくCMPそのものに問題があるのではという意見と、CMPそのものは問題ではないという意見もあります。ちなみにSiウエハのCMPの場合、Si結晶表面近傍のSi原子層が剥がれることとアモルファスSiO2に相転移することが同時に起こりSiO2は表面から剥離されていくということが言われています。SiウエハではCMPでは潜傷による表面の荒れは起こらないという話もありました。SiCのCMPでもこれと同様な現象ではないかとの話がなされています。つまりSiCの表面層が剥離されると同時にアモルファスのSiO2とCO2ガスが生成されるという説です。アモルファスのSiO2とCO2ではSiCの表面は傷つかないのではという説です。

ちなみに、Siウエハの場合、温度をあげると転位は比較的容易に運動するので、仮にCMPで転位が導入されていたとしても表面近傍の転位はエピ膜成長工程の昇温時に表面に排出されるのではと考えられます。SiCでは簡単には排出されません。CMPに使う薬剤が研磨中に偶発的に固化してウエハ表面を傷つけるのではという説や、CMP中のMechanicalな研磨の要素がSiC表面を傷つけているという説も言われています。研磨技術の向上と改善は進んでいるようですが、最近では、エピ層成長後のプロセスの工夫により潜傷による歩留まり低下の抑制をおこなったりしているようです。

ウエハ研磨会社各社のインターネット上のホームページを見にいくと、研磨後のウエハ表面の状態を示す宣伝のためのAFM像が載っていて、原子レベルでウエハ表面が平滑であることがアピールされています。しかしながら、AFM像のような平滑な表面の状態がウエハ全面に及んでいるか?というとそれはまた別の課題です。さらに表面は平滑なのに、表面直下に高密度の転位が存在するという場合もあることを想定して研磨状態を評価しなければなず、それもまた別の課題です。

終わりに

10回の連載に分けて、放射光を用いたX線トポグラフ法で観察される4H-SiCの格子欠陥のコントラストについて説明しました。我々は、この放射光トポグラフ法を応用して、ウエハメーカー各社の4H-SiC ベアウエハの格子欠陥の分布や密度、エピ層成長に伴う転位組織の変化、デバイスプロセスに伴う転位組織の変化、MOS構造の絶縁破壊と転位の関係、p-i-n構造順方向特性劣化現象、p-i-n構造逆バイアス耐圧不良と転位の関係、潜傷の検出などの調査を行い、その当時の新しい知見を得ることができました。

X線トポグラフ法は透過型電子顕微鏡のg・b解析と原理的には同じです。この連載を書くにあたって参考にした文献は以下のものです。大部分は古い透過型電子顕微鏡関係の本です。

Electron microscopy of thin crystals, P. Hirsch, A. Howie, R. Nicolson D.W. Pashley, and M.J. Whelan. Butterworth & Co publishers (1965).

Diffraction and Imaging Techniques in Materials Science, Edited by S. Amelinckx, R. Gevers and J. Van Landuyt Vol. 1 and Vol. 2, North-Holland Publishing Company, second Edition (1978).

Transmission Electron Microscopy: A Textbook for Materials Science, D. Williams & B. Carter, Plenum Press (1996).

X線回折・散乱技術 (上) 菊田惺志 東京大学出版会 (1992).     

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