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コラム 解説

放射光トポグラフ法の利用 (7)
〜 ショックレー型積層欠陥、積層欠陥の変位ベクトルR 〜

積層欠陥の変位ベクトル R

 

前回までの連載では転位のコントラストについて説明してきしました。トポグラフ像に現れる転位の像は、転位の周囲に形成されている格子歪みによりコントラストが出現しています。この場合、g・b≠0や、g・(ξ x b )≠0が、転位のコントラスト出現の判定式でした。ショックレー型積層欠陥の縁に存在するショックレー型部分転位の周りには、格子歪みが付随しています。ショックレー型積層欠陥そのものの周囲には、格子歪みは通常は存在していません。積層欠陥そのもののコントラストは転位のコントラストとはちょっと異なる理由により出現します。

 

図7-1のBCDFEはショックレー型積層欠陥部です。図7-1(c)では、ショックレー型積層欠陥部には少し薄いグレーのコントラストがついていますが、図7-1(a)(b)のトポグラフ像では積層欠陥のコントラストはありません。gベクトルに依存して、積層欠陥にも、コントラストが表れたり消失したりするルールがあります。これらのことを説明したいと思いますが。その前段階として、積層欠陥の変位ベクトルRについてまず説明したいと思います。

 

積層欠陥をどう記述するか、どう分類するか、には色々な目的に応じて色々なやり方があると思います。透過型電子顕微鏡法やX線トポグラフ法で、積層欠陥のコントラストを考察するときに、最初に出てくる重要なパラメーターは積層欠陥の変位ベクトルRです。積層欠陥の場合、2π g・R ≠2nπ (n= 0, ±1, ±2, ±3, ….) あるいは g・R n が積層欠陥のコントラスト出現の判定式になります。2π g・Rの値が、2nπではない時に積層欠陥によるコントラストが現れます。この積層欠陥のコントラストルールは転位コントラストのルールとは別物です。gベクトルを変えると、部分転位と積層欠陥の両方が観察されたり、一部の部分転位のコントラストが消失しているにもかかわらず積層欠陥コントラストは観察されたり、部分転位は観察されるが、積層欠陥コントラストは消失しているなどということが起こります。まずショックレー型積層欠陥の変位ベクトルRの定義について説明します。

 

図7-2は“その(3)”で出てきた図3-3b=1/3[011(-)0]のショックレー型部分転位の周辺を拡大して示した図です。この図は[0001]方向から見たショックレー型部分転位のコア付近の模式図です。部分転位がのっているすべり面の上側、つまり[0001]側のSi原子位置を白丸で示し、部分転位がのっているすべり面の下側、つまり[0001(-)]側のC原子位置を黒丸で示しています。すべり面と積層欠陥の上下のC原子層とSi原子層の2層の結晶面のみを示しています。

図7-2 ショックレー型部分転位b=[011(-)0], ξ=[112(-)0]とショックレー型積層欠陥の模式図。 [0001]方向からの観察した様子。すべり面の上側のSi原子位置を白丸、すべり面の下側C原子位置を黒丸で示している。左側は完全結晶領域。右側のグレーの部分はショックレー型積層欠陥領域。

 

この図では、部分転位は右側から左側方向へ(0001)面上を動いてきて、つまりすべり面上を動いて行き、動いて行った跡にはグレーの部分の積層欠陥領域が形成された状態を示しています。話を簡単に理解にするためにすべり面や積層欠陥の下側のC原子層は変位しておらず、このC原子層より下側は完全結晶だとします。すべり面の上側のSi原子位置が色々と変位すると仮定します。左側の完全結晶部分でSi原子は、左側に頂角を持つC原子が作る三角形の重心位置にいます。右側の積層欠陥部では、積層欠陥の上側に位置するSi原子は、右側に頂角を持つC原子が作る三角形の重心位置に移動しています。このSi原子位置の移動を、図中の赤矢印で示しています。積層欠陥の上側の第一近接の全てのSi原子位置が赤い矢印の位置へ移動しています。そして積層欠陥部では、Si原子層の上側にある全ての原子が同様に移動しているという構造モデルになります。この構造モデルは、なるべく簡単に欠陥周りの格子の構造を定性的に理解するための説明用のものです。

 

この赤い矢印はこのb=[011(-)0]のショックレー型部分転位のバーガース・ベクトルそのものです。このモデルでは部分転位のすべり面より下側は固定されていて完全結晶だと想定し、部分転位が移動して積層欠陥が形成されるとその積層欠陥の上側の原子は全て部分転位のバーガース・ベクトルぶんだけ移動するというふうに理解をするためのモデルです。このモデルでは部分転位の直上側では結晶は弾性的に圧縮された部分が存在しています。このモデルを、[1(-)1(-)20]方向から眺めた状態を図7-3(a)に示します。図7-2で説明したように、部分転位がのっているすべり面、つまり(0001)面、の下側は完全結晶と想定しています。部分転位がのっているすべり面上を部分転位が右から左へ転位が移動するとその跡にはショックレー型積層欠陥が形成されます。積層欠陥の上側の結晶は全ての原子がバーガース・ベクトル分だけ移動します。この部分転位の直上には弾性的に圧縮された領域が作り出されていると仮定すると話はまずは理解しやすいと思います。実際の歪みの状態を考えると、この部分転位の直上の圧縮ひずみはある程度緩和されていて、部分転位の直下には逆に引っ張り歪み領域が形成されていています。それらの転位の周りの格子の歪みは、この部分転位から離れると減衰します。一方、積層欠陥部のみを考えると積層欠陥近傍の上下の結晶には格子歪みはありません。しかし、積層欠陥の上下では結晶格子の変位が発生しています。積層欠陥の下側の結晶から上側の結晶を見ると、部分転位のバーガース・ベクトルbだけ変位しています。逆に今度は積層欠陥の上側の結晶からした側の結晶を見ると、相対的に変位ベクトルR=-bだけ変位しています。この状態を簡略化して積層欠陥部分のみを示した図が、図7-3(b)です。

7-3 部分転位の周りの格子歪みの単純化されたモデルとショックレー型積層欠陥の上下での格子構造を定性的に理解するための単純化された説明図。 (a) b=[011(-)0]のバーガース・ベクトルを持つ部分転位の下側は結晶格子の変位が無い完全結晶状態、転位による結晶格子の変位は全て転位の上側で発生するとした簡単化したモデル図。 格子構造を定性的に理解する上で便利なモデル。積層欠陥の上側の部分はバーガース・ベクトルb だけ変位している。(b) トポグラフ像の積層欠陥コントラストを議論する際の変位ベクトルRの定義を示す図。上側の結晶は固定され、下側の結晶が変位ベクトルR=-bだけ変位している。黄色い破線は、ショックレー型積層欠陥を示している。赤い矢印は部分転位のバーガース・ベクトル。積層欠陥の周りでは結晶格子の歪みはない。

図7-3(b)はショックレー型積層欠陥のコントラストを議論するときに使うRベクトルを定義する図です。60年代や70年代の透過型電子顕微鏡法やX線トポグラフ法の論文や教科書では、電子線やX線が入射してくる入射表面を結晶の上面に設定し、上面から入射してさらに結晶中を深く進行する電子線やX線が積層欠陥部にたどりついて何らかのことが起こるというシナリオになっているので、積層欠陥の上側結晶が固定され、下側結晶が動くというモデルを作って変位ベクトルRを定義しています。図7-2図7-3の説明は多少まどろっこしい感じがします。このまどろっこしさは、格子欠陥の構造を議論する際には、結晶の下側の土台部分は完全結晶を想定して、その上に格子欠陥の構造を議論するというのが、格子欠陥の論文などに現れる話なのですが、電子顕微鏡屋さんやX線トポグラフ屋さんが、格子欠陥の像コントラストを議論する際には、入射表面のある結晶の上側を固定して、下側に結晶格子の歪みの構造やら変位の構造を作って議論することが原因だと思います。単に変位ベクトルRの説明をするのであれば、図7-3(b)の説明のみで良いのですが、ショックレー型積層欠陥のRベクトルとショックレー型部分転位のバーガース・ベクトルの関係を整理しておくために図7-2図7-3の説明をしました。

 

どういう反射で積層欠陥のコントラストが表れ、どういう反射で積層欠陥のコントラストが消失するのかを説明することが目的ですが、その前にまず積層欠陥の変位ベクトルRの説明を行いました。次回の連載記事で、変位ベクトルRを使って積層欠陥のコントラストのルールについて説明します。

 

(つづく)

 

 

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