貫通らせん転位“系”のコントラスト
貫通らせん転位は、バーガース・ベクトルが1 nmと大変大きく、この転位の周囲の結晶格子の歪エネルギーは大変大きいことは、その(3)で述べました。放射光を用いたベルク・バレットX線トポグラフ法では、比較的大きな直径10 μm前後の白い円形状または楕円状のコントラストを示します。この比較的面積の大きな白い円形状のコントラストは、貫通らせん転位が結晶表面で終端した時に、転位の周りの結晶格子の歪みエネルギーの解放による結晶格子の表面近傍での変位に起因するコントラストを見ています。白いコントラストはX線の強度が弱く、ほとんど回折強度が無いことを示しています。つまり、貫通らせん転位の表面終端部では、ほぼ回折現象が起こっていないと考えられます。
図6-5は、gベクトルを変化させて観察した貫通らせん転位のコントラストの変化を示しています。図中のA,B,C,D,E,F,G,H,I,Jは、貫通らせん転位“系”の転位のコントラストを示しています。gベクトルを変化させて観察すると、白い貫通らせん転位のコントラストの大きさが変わります。例えば、転位“I”のコントラストの大きさは図6-5(a)と(b)とでは異なります。それぞれA,B,C,D,E,F,G,H,I,Jのコントラストもgベクトルを変化させると、白いコントラストの大きさは変わります。
透過型電子顕微鏡で、これらの貫通らせん転位”系“を観察すると、転位は少し蛇行しながら表面で終端していることがわかります。これらの転位は表面に対して正確に垂直な角度で終端しておらず、それぞれの転位が微妙に異なるいろいろな角度の状態で終端しています。貫通らせん転位”系“の表面終端部分の結晶格子の歪みエネルギーの緩和の状態も360°の回転対称な緩和をしているわけではないと考えられます。このことが、gベクトルを変化させると、貫通らせん転位”系“のコントラストの大きさが変化する原因だと考えています。
b=±[0001]の貫通らせん転位の他に、その(3)で述べたb=±c[0001]+a/3<1120>の貫通混合転位や、さらにそれらが合体したb=±c[0001]+a<1010>のデバイスキラー欠陥と呼ばれた貫通転位などもこのような比較的大きな直径10 mm前後の白い円形状のコントラストを示します。我々が用いている放射光ベルク・バレットX線トポグラフ法ではこれらの転位の区別は不可能だと思われます。これらの転位の区別は、透過型電子顕微鏡を用いた収束電子回折 (CBED)法では可能です。
コメントを残す