放射光X線トポグラフ法を用いた4H-SiCの転位の観察と解析について簡単に説明することがこのコラム・解説の記事ですが、その前に4H-SiC結晶中の転位をどう記述するか、色々な転位をどう区別し仕分けするのか?について簡単に整理しておくことにします。区別の仕方は色々なやり方が考えられますが、ここで記述するのは我々が行ってきたことと関連した区別の仕方です。エピ層成長時に現れることがある界面転位組織や、バイポーラーデバイス構造で観察されることがある順方向特性劣化現象に関係する転位組織、バイポーラーデバイス構造での逆バイアス時の電流リーク現象と関連した転位、等に関連した転位の同定に絞って書くことにします。話が長くなるのを避けるために、重要なことを少し天下り的に書きますが、なるべく理解可能な説明にしたいと思います。この解説文を読む方は、おそらく半導体格子欠陥の評価や放射光X線トポグラフ法に興味を持っている研究者だと思います。この解説記事を読んで不明な言葉が出てきた場合は、インターネットで調べると理解できると思います。最初に、転位をどう記述するのか、について簡単に書きます。
転位の向きとバーガース・ベクトル
大雑把な記述として、転位の向きと、バーガース・ベクトルの2つのパラメターが転位を同定したり、分類したりする上で最低限必要だと思われます。この2つがどういう関係にあるかを簡単に整理したいと思います。転位のバーガース・ベクトルが求められると、そこから色々なことが議論可能になる場合があります。例えば、その転位はどういう種類の転位なのか?ということが理解されます。求めたバーガース・ベクトルを、結晶成長のプロセスや、エピ層成長や、デバイスプロセスの環境についての情報と組み合わせることにより、その転位はどういう理由でそこに存在しているのか?そこで何が起こって転位が成長したのか?この転位とあの転位は関係があるのか?この転位はデバイスの性能劣化の原因ではないか?などの議論が可能になる場合があります。考察がうまくいけば、結晶成長法や、ウエハプロセス、エピ層成長、デバイスプロセスの改良に結びつくかもしれません。4H-SiCのウエハを提供する会社では、ウエハ表面での転位の分布の状態と各転位のバーガース・ベクトルを調査し、その調査結果より単結晶成長中にどのような熱応力が発生しているかを推察していると聞いています。同時に、単結晶成長炉の中での温度分布、および結晶への熱応力を計算機でシミュレーションし、その結果との比較などにより、結晶の温度分布が均一になるように炉内の構造を調整し、単結晶の転位密度の低下を行っているという話は聞く話です。またエピ層成長中に発生することのある界面転位も、転位の分布状態、転位密度、バーガース・ベクトルを調べることにより、エピ層成長中にどのような熱応力が発生しているかを求め、対策を行い界面転位発生の抑制に成功した例もあります。バーガース・ベクトルを求めることが重要かそうでないかは、いかに知恵を使ってプロセス時の状態と関連つけて考察するのかに関係しているかもしれません。また、まれに存在する特殊なバーガース・ベクトルを持つ転位は、デバイスの歩留まりを落とすデバイス・キラー欠陥として知られています。転位のバーガース・ベクトルを求めてそれが何のやくに立つのか?という質問を何度かパワエレ関係の会議のポスターセッションなどで受けたことがあるので、バーガース・ベクトルを調べることは重要ですという説明をしました。
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