貫通らせん転位、貫通混合転位、フランク型刃状転位、フランク型積層欠陥について
基底面完全転位のバーガース・ベクトルを持つ転位が基底面から抜け出して、[0001]方向などの方向や、いろいろな方向に沿って走っている転位を貫通刃状転位などと呼んでいます。一方、4H-SiCでの貫通らせん転位と呼ばれている転位はb=±[0001]のバーガース・ベクトルを持つ転位で、[0001]方向に向かって、直線状かあるいは蛇行しながら走っている転位です。バーガース・ベクトルの長さは1nmと大変長く、この転位の周囲の格子歪みのエネルギーは巨大だと考えられています。
類似の転位に貫通混合転位と称されるものが存在しています。これは、貫通らせん転位と貫通刃状転位が合体した転位で、バーガース・ベクトルはb=±[0001]+ 1/3<1120>を持っていて、[0001]方向や、それに近い方向に蛇行しながら走っています。b=± [0001]の転位も、b=1/3<1120>の転位も結晶格子の周期性の一周期の長さを持っているので、それぞれ完全転位です。先ほども記述しましたが、バーガース・ベクトルが大きくなると転位の周りの格子歪みのエネルギーが大きくなるので、なるべく小さなバーガース・ベクトルの転位に分解していた方が、エネルギー的には低いので、合体するより分裂して2つの完全転位に分解していた方が自然に思えます。しかしながらバーガース・ベクトルb=± [0001]自体の周りの歪みエネルギーが大きいので、比較的小さな歪みエネルギーを持つ貫通刃状転位b=1/3<1120>がおまけについていても、4H-SiC結晶はあまり気にしないのかもしれません。また2つの転位に分解するプロセスにポテンシャルバリアーがあるのではとも考えられて、b=±[0001]+ 1/3<1120>の貫通混合転位はそれなりの比率で存在しています。一見普通の貫通らせん転位のように見えて、実はある程度の割合で、貫通混合転位が存在していることを透過型電子顕微鏡のg・b解析で確認しています。また、結晶成長時にビルトインされているこれらの貫通転位は大もとの単結晶の作り方に依存し、貫通らせん転位と貫通混合転位の割合はメーカーごとロットごとに異なると思われます。
貫通混合転位の中で特筆すべきは、2本の貫通刃状転位と1本の貫通らせん転位の合計3本の貫通転位が合体しているものが存在していることです。これは例えば
b=±[0001] + 1/3[1120] +1/3[2110] = ±[0001] + [1010]と示すことができますが、これを一般的に表現すると、b= ±[0001] + <1010>と書いておきます。
<1010>のある程度大きな歪みエネルギーを持つ刃状転位成分が、大きな歪みエネルルギーを持つ [0001]のらせん転位成分と合体しています。この大きな刃状成分を持つ転位は分解した方がエネルギー的に低くなるのですが、分解プロセスに多少のポテンシャルバリアーが存在しているので分解していないことが考えられますし、また一方で、[0001]の歪みエネルギーが大きいので、比較すると一応小さな歪みエネルギーとみなされる貫通刃状成分がおまけに付くことが、許されているのかもしれません。この大きなバーガース・ベクトルを持つ貫通転位は稀に存在しているのですが、かつて、デバイスキラー欠陥と呼ばれていた特殊な欠陥だと考えられています。この欠陥については、この連続の解説その(2)でも触れました。また以前にも説明しています。詳しくは過去の記事をご覧ください。
貫通らせん転位や貫通混合転位は[0001]方向に向かって蛇行しながら走っていますが、これらの転位が向きを変え(0001)面上に載るとフランク型の刃状転位になります。さらにこのフランク型刃状転位は、バーガース・ベクトルが巨大なので、例えば純粋な貫通らせん転位の場合、4つの1/4[0001]のフランク型部分刃状転位に通常分解します。1/4[0001]のフランクの部分刃状転位の格子変位は、結晶構造の1周期分の変位ではないので、この部分転位が発生するとR=1/4[0001]の変位を持つ積層欠陥を引きずります。この積層欠陥はフランク型積層欠陥と呼ばれています。純粋な貫通らせん転位が向きを変え (0001)面上に載る場合、4つのフランク型刃状部分転位の間に3枚のフランク型積層欠陥が存在することが想定されますが、貫通混合転位の場合、ショックレー型積層欠陥もおまけに付いてきます。ショックレー型積層欠陥変位成分がフランク型積層欠陥変位成分に含まれたりします。また、フランク型積層欠陥の周りには複数枚のショックレー型積層欠陥と複数本のショックレー型部分転位が、おまけに付いてくることはよくあることです。このフランク型積層欠陥と複合した積層欠陥は、ある程度の少ない密度でエピウエハ中に存在していています。顕微PL法でエピウエハの欠陥を調べている研究者は、バンブーシェイプ欠陥などと呼んだりもしています。これらの欠陥は、作製されたパワーデバイスの歩留まりを落としています。
放射光を用いたトポグラフ法による格子欠陥の解析法についての記述が本記事の目的ですが、その前段階として、4H-SiCのウエハ中に存在する各種格子欠陥の整理を簡単に行いました。
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