それでは技術階層の相互関係に関してはどうなるであろうか。図5-2(2)を複数の技術階層に渡って縦方向に並べてみたのが図5-3である。この図では、同一技術階層内の成熟度進展矢印は世代に拘わらず同一色で示されている。素材⇒機能要素⇒機能モジュール⇒応用機器・システムと、各階層の成果物がより上位階層に使われていく実態が表現され、産業構造上のサプライチェーンに対応する。この際、単純に同じ技術世代が順次上位の技術階層に使われるのみならず、上位の技術階層のある技術世代に対して下位の技術階層の一つ前の技術世代が「既存の部品」や「一般素材」として使われることも特に技術成熟度が低い段階においては一般的である(図5-3中の点線/破線矢印)。或いはより進んだ技術世代が使われるといったこともあり得る。但し、最終物に近いより上位の技術階層で使われるためには、下位の技術階層においてある程度技術成熟度が進んだ技術、特に量産性や品質/性能の安定性が確保された技術でなければならない。その結果、技術の渡し手(技術を開発した後に渡す)と受け手(受け取った技術を用いて開発する)の必然性から時間軸に「遅れ」を伴って技術が伝搬されることになる。その上で、個別技術階層における各技術世代がより上位の技術階層に伝搬され、個別技術階層を跨がったより広い意味での技術潮流になるのが見て取れる。
以上、従来型のR&Dロードマップの問題点を指摘した上で、特に技術成熟度に注目し新たな考え方を提起させて頂いた。そのエッセンスは進展軸として
- 時間
- 技術成熟度
- 技術世代
- 技術階層
の4種を設定することである。ある意味「4次元」の図になってしまい、全体を2次元の紙面に簡潔に表現するのはなかなか厄介ではあるが、敢えてそれを試みた図を図5-4に示す。一般論としての図と我々が日々接しているパワーエレクトロニクス領域における個別具体的な図が入れ替わりご覧頂ける様になっており、ご参考になれば幸いである。
また、その中でも中心的なワイドギャップ半導体パワーデバイスに関する技術階層の「技術成熟度 vs. 技術世代」のマップを図5-5に示す。各世代技術の中でも技術成熟度はそれぞれの耐電圧にも大きく依存しており、インフラ向けの傾向が強い高電圧デバイスほど難易度は高く、ある時点で到達できている技術成熟度はその分低くなる。耐電圧ごとに現時点での大まかな技術成熟度の位置を赤字で示す。
近年、種々のR&Dプロジェクトにおいて、目標/計画設定と共に関連ロードマップも議論される傾向が見て取れるが、目標/計画設定では当該ロードマップのどの進展軸のどの範囲を対象とするのか、その上でどのような目標を目指すのかといった点をより明確化していくことが、技術の実用化・社会実装とその効率的実現の観点からは極めて重要ではないだろうか。
最後に今まで述べてきたロードマップに対する考察の元となった拙論文を以下に挙げておく。
(完)(奥村 元)
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