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コラム 解説

R&Dロードマップについての一考察 (3)
〜 実用化に向けた技術成熟度の意味 〜

 前回の記事では、R&Dロードマップ検討に必要な「技術成熟度」、「技術世代」を取り上げた。今回は「技術成熟度」の具体的意味を技術実用化の観点から議論する。

 技術成熟度として、NASAによる9段階定義を前記事の図2-1に示しているが、各段階の表現は汎用性を考慮しても極めて曖昧なものである。ここで半導体デバイスチップ開発を例に、実際の一般的デバイス開発に則したアプローチを模式的に3次元的に表現したものを図3-1に示す。

図3-1 実用化に向けた新規デバイス開発のアプローチ  

 あるデバイス特性の向上を目指した新規半導体デバイスの開発においては、新規な動作原理が見いだされれば(理論予想だけのこともあるし、現象だけのこともある)、まず小さなデバイス基本構造でその確認を行おうとする。その構造を作り込み、期待通りの特性が発現するかどうかを見極める。この時、まずは耐電圧や電流密度と言った定常的な静特性を念頭に置くが、応用領域によっては過渡応答的なデバイス動作の特性(動特性)を気にすることもある。いずれにしても、デバイス基本構造の静特性、及び動特性からなる「基本特性」を確認するのが図3-1のx軸で示す第1のアプローチである。

 機器やシステムに搭載されて社会実装されることを「実用化」とするならば、この第1のアプローチで実現されるものは、通常何かの機器に搭載されるにはほど遠い代物である。「実用化」のために必要となるのが図3-1のy軸、z軸で示す2種のアプローチであり、一言で表現するならば、y軸は「大容量化」、z軸は「信頼性」に関するアプローチと言える。

 まず、「大容量化」に関してその意味するところは、電流値や抵抗値といった実際に使われる上で意味のある何らかの特性値そのものの実現であり、x軸のアプローチでよく指標とされる「単位ユニット当たりの特性値」ではない。代表的なものが図中にある「電流密度」と「電流」であり、実際に使われる上で要求されるのは「電流」値である。大抵の場合デバイスの大面積化が必須となり、小さな基本構造デバイスでは実現できていた特性が実現できなくなっていることが多い。このx軸とy軸のアプローチが達成できて初めて実用化に向けた実装状態での実動作の確認が可能となることに注目頂きたい。

 さて、実用化に向けた第3のアプローチである「信頼性」であるが、信頼性の中身にも図中に示すようないくつかのレベルがあるが、実使用上での”壊れにくさ”と言ってもいい内容である。実用化に向けたR&Dとしてはこの指標もクリアすることが必須となるが、統計処理が含まれる信頼性評価の特性から、同様の特性を持つデバイスチップを再現性をもって安定的に相応の量を作製することが前提となる。ある意味、生産性にも関わるポイントであるが、それが実現できて初めてz軸のアプローチが取れるようになる。

 最終的には上記の3軸のアプローチの統合として実用性/生産性の実現に繋がる事になるが、「技術世代」等の技術要素の進展に伴ってこのx軸→y軸→z軸のプロセスが繰り返され、全体として特性指標の実用的改善が達成される。

 以上のような観点から技術成熟度を見直してみると、図3-1の「基本特性」、「大容量化」、「信頼性」のアプローチをそれぞれ、前記事図2-1におけるTRL:2〜4、TRL:4〜6、TRL:6〜8あたりに対応させるのが適切ではないだろうか。

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