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コラム 解説

R&Dロードマップについての一考察 (1)
〜 標準的ロードマップの解釈上での問題点 〜

昨今新規技術の開発において、技術進展の指針としてロードマップが重視されている。通常、この種のロードマップは図1-1に示すように、技術の出口サイドからの要求仕様として、各種の特性指標と時間軸の関係として描かれている。

標準的 ロードマップ 特性指標
図1-1 標準的な記載法によるロードマップの例

 この種の記載法は、当該技術開発の向かうべき方向が単一であり、その要素技術における特性指標が相互に独立して扱えるケースでは、技術全体の進展の俯瞰に大いに役立つが、技術の適用先として向かうべき方向が複数あったり、特性指標間にいわゆるトレードオフ関係がある場合、更にはデバイス技術と実装技術など異分野の技術要素の統合が必要となる場合には、単一指標項目の妥当性や指標間の両立関係を深く吟味しないと、意味のあるロードマップに仕上がらないことがままある。たとえば半導体パワーデバイスでは図1-1にあるような耐圧と特性抵抗はトレードオフ関係にある代表的な指標であるし、その耐圧を実現させるための必要技術は、1kV以下のものと10kV以上のものではもの作りの技術としては大きく異なると認識されており、それらを相互に独立した目標指標、或いは単一の目標指標として扱うと大きな誤解を生じさせる恐れがある。

技術世代 技術成熟度 実用化観点
図1-2 特性指標の向上と「技術世代」、「技術成熟度」

 一つの特性指標の向上に資する技術要素は一つに限る訳でもない。一般的には、単一の技術要素の進展に伴う特性指標の向上は、図1-2の青矢印で示される様に時間軸の進展に伴って徐々に飽和する。実際の技術進展においては、図1-2の赤矢印で示されるような一見すると当該特性が飛躍的に向上しているケースもしばしば見られるが、中身をよく吟味してみると実は別の新世代技術要素が導入されたことによって達成されている場合が多い。こういったケースでは、特性指標だけから見ると、ある意味不連続な特性向上であり、飛躍的な向上に貢献した技術要素は元の技術要素とは質的に異なる別の細分化した技術要素として扱う方が理にかなっている。

 また、技術を実用化観点からみた場合、その重要ポイントは個々の技術の成熟度(確実に使える技術かどうか)である。しかしながら、通常のロードマップではこの「技術成熟度」の視点が欠けており、ロードマップの値がどの成熟度でのものを指すのかが不明確であったり、異なる成熟度のものが混在していたりするケースが多々見受けられる。技術開発の途中過程においては、ある特性値だけに着目すれば高い値を実現できたり、最高値のみを追い求めるケースが頻繁に存在するが、その様な場合、特性の再現性や作製プロセスの安定性に問題があったり、更には複数指標の両立が満足できないような状況がよく見うけられる。

 このような状況を鑑みると、技術開発ロードマップを検討する際には、「特性指標」に代わって「技術世代」、並びに「技術成熟度」を進展軸に採用するアプローチの方がより適切なのではないかという考えに至る。

 次回以降、この技術開発ロードマップにおける技術成熟度と技術世代に関して、詳しく考察してみたい。

(つづく)

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