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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (12)
〜 まとめ 〜

(D) ドリフト層中に発生した短い基底面転位

(D-1)による積層欠陥

nドリフト層はエピ層成長によって形成され、エピ層成長中の大部分の転位は成長表面に対してほぼ垂直になるように向きを変えるため、nドリフト層中の大部分の転位は貫通転位に変換されています。貫通刃状転位は順方向特性劣化を引き起こさないので、このことは大変良いことなのですが、貫通刃状転位が何らかの原因でnドリフト層中で折れ曲がり、クランク状の形状を形成し、短い基底面転位が現れることも考えられます。これらの短い基底面転位からどのような形状の積層欠陥が成長するのかは、連載(9)で考察しました。

貫通刃状転位の折れ曲がりにより、nドリフト層中で発生した短い基底面転位部分より成長した積層欠陥の形状を図12-3に示します。貫通刃状転位の折れ曲がりは、nドリフト層中の中心の深さ位置に存在していることを想定して、図を描いています。図中の黒丸は貫通刃状転位の折れ曲がりによって生成した短い基底面転位の位置を示しています。これらの黒丸位置から積層欠陥は成長します。六角形状の積層欠陥は青色矢印の方向に成長を続け、遮るものがなければMOSFETの端まで到達し、そこで成長を停止すると考えられます。三角形状の積層欠陥はこの形状で成長を停止します。この積層欠陥の形状は、図12-1, 12-2で示した積層欠陥の形状とも異なることがわかります。

図12-3は、積層欠陥を、ほぼ[0001]方向から観察している状態で、p層/nドリフト層界面とnドリフト層界面/n+層界面の中間の深さに黒丸が位置するように描いています。貫通刃状転位の折れ曲がりの位置がnドリフト層/n+基板界面に近いと、黒丸はnドリフト層界面/n+層界面方向に移動し、図12-1 (a),(b),(c),(d)の図に示す形状に近い形状の積層欠陥が現れます。逆に貫通刃状転位の折れ曲がりの位置がp層/nドリフト層界面に近いと黒丸はp層/nドリフト層界面方向に移動し、図12-1 (a’),(b’),(c’),(d’)の図に示す形状に近い形状の積層欠陥が現れます。

また1本の貫通刃状転位の折れ曲がりが複数回発生すると異なる形状の積層欠陥が重なって観察される可能性もあります。それらの重なった積層欠陥の形状を考察すると図12-3に示した形状の他にさらに色々なバリエーションが考えられます。それらのバリエーションの一部は連載(9)に示しています。

図12-3 貫通刃状転位の折れ曲がりによりnドリフト中で発生した短い基底面転位部分より成長した積層欠陥の形状。黒丸は起点となった短い基底面転位の位置。青矢印は積層欠陥の成長の方向。

・(D-2)による積層欠陥

L字状界面転位が存在していると、エピ層成長中に界面転位は動いていき、貫通転位との交差を引き起こします。連載(7),(10)では界面転位と貫通転位の交差によって、nドリフト層中で発生する短い基底面転位が起点となって成長する積層欠陥の形状について考察しています。界面転位と貫通転位との交差により大変短い基底面転位が出現したり、小さな基底面転位ループが出現したりします。これらの現象はエピ層成長中に発生するのですが、このエピ層成長プロセスの後の各種のプロセス中に何らかの応力が作製中のデバイス構造に加わると、この短い基底面転位が長く張り出してくることが推察されます。長く張り出した基底面転位からREDG効果によって積層欠陥が湧き出しすことも推察されます。実際のところ、L字や逆L字状界面転位と貫通転位との位置関係に依存してさまざまな状態のものが考えられ、バリエーションは際限なく広がって行くのですが、それらの例の一部を図12-4に示します。

図12-4(a),(b),(c),(d),(a’),(b’),(c’),(d’)では貫通刃状転位と界面転位の交差の例を示しています。ただし、図中には2本の貫通刃状転位を描いているものもあります。2本の貫通刃状転位の図は同じバーガース・ベクトルを持つことを想定して示しています。左側コラムの図はL字状の界面転位と貫通刃状転位との交差、右側コラムの図は逆L字状の界面転位と貫通刃状転位との交差が原因となった場合を想定しています。黒丸は貫通転位の位置。黒い蛇行線は異なる変位ベクトルを持つ積層欠陥のドメイン境界を示していて、右側のコラムの図と左側のコラムの図の欠陥構造は映進対称な構造になっています。貫通刃状転位と界面転位との相対的な位置によっても積層欠陥の形状やドメイン形状は異なってしまいます。

また、実際の場合は、複数個の異なるバーガース・ベクトルを持つ貫通刃状転位との交差により、より複雑な積層欠陥のドメイン境界を形成する場合も推察されます。貫通刃状転位と界面転位の交差と、その後の高温プロセスでの応力が原因となって発生する積層欠陥は積層欠陥中に三角形の穴が開いたり、積層欠陥がいびつな形状を形成したり、積層欠陥内部に異なる変位ベクトルを持つ積層欠陥のドメイン境界を形成したりします。

順方向特性劣化を示すデバイスを顕微PL法で観察すると、成長した積層欠陥が重なって複雑な形状を示すことがあります。複数の積層欠陥が接近していると、多重の積層欠陥の重なり部分と、重なっていない部分とで、積層欠陥のコントラストに違いがあり、積層欠陥のドメイン構造が存在するかのように見えることがあります。そのように観察される積層欠陥の構造と、図12-4で示している積層欠陥のドメイン構造とは別のものです。

界面転位と貫通らせん転位とが交差する場合は、界面転位は基底面転位ループを貫通らせん転位の周りに残すことが推察され、その場合は図12-4(a),(a’)と似た形状の三角形状の積層欠陥の成長が推察されます。この場合貫通らせん転位部分から2枚重なった積層欠陥が成長することが推察されます。

また、界面転位と貫通刃状転位との交差が発生しても、その後のデバイスプロセスで応力を受けることなく、また同時にU字状転位が生成されている場合は、U字状転位から成長した積層欠陥が、先に大きな面積を占有し、これらのドメイン構造は明確には出現しないことが考えられます。

図12-4 貫通刃状転位、貫通らせん転位と界面転位との交差によって生成した短い基底面転位が元となって成長する積層欠陥の形状。(a),(b),(c),(d),(e),(f),(g),(h)はL字状界面転位と貫通転位との交差が原因となった場合。(a’),(b’),(c’),(d’),(e’),(f’),(g’),(h’)は逆L字状界面転位と貫通転位との交差が原因となった場合。(b),(d),(f),(h),(b’),(d’),(f’),(h’)はU字状転位の生成を伴う場合。黒丸は貫通転位の位置。黒い波線は異なる変位ベクトルを持つ積層欠陥のドメイン境界を示す。

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