図11-3, 11-4, 11-5 は図11-1(b)の欠陥モデルから、REDG効果により成長する積層欠陥の形状を示しています。図11-1(b)の欠陥モデルからは、単体菱形積層欠陥の成長の場合と、2重菱形積層欠陥の場合の2種類の積層欠陥の成長が可能です。このモデルは連載(9)で考察したn–ドリフト層中で貫通刃状転位が折れ曲がり、短い基底面転位成分がn–ドリフト層で発生する場合、つまり(D-1)の場合、と同じように考察することが可能です。ただし貫通刃状転位の折れ曲がりがp層/n–ドリフト層界面の近傍で発生しているような状態です。また、基底面転位の向きは9時から3時方向の範囲で考察し、積層欠陥は、下半分、つまり3時から9時方向へ成長する場合のみを想定します。基本的に連載(9)での考察と同じなので、簡略して説明します。
図11-3は、図11-1(b)の欠陥モデルでb=±1/3[1120]のモデルから積層欠陥が成長した状態です。図11-3(a)はb=1/3[1120]の短い基底面転位がA’層またはC’層中に存在し、1時から3時の方向に向いている場合の積層欠陥です。この形状は図5-6(a)から求めることができます。図11-3(b)はb=1/3[1120]の短い基底面転位がA層またはB層中に存在し、9時から11時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-6(b)から求めることができます。図11-3(c)はb=1/3[1120]の短い基底面転位がA’層またはC’層中に存在し、9時から1時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-6(c)から求めることができます。図11-3(d)はb=1/3[1120]の短い基底面転位がA層またはB層中に存在し、11時から3時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-6(d)から求めることができます。図11-3で示されている積層欠陥は図11-2の積層欠陥と同様な形状で、形状は重複しています。
図11-4は、図11-1(b)の欠陥モデルでb=±1/3[1210]のモデルから、積層欠陥が成長した状態です。図11-4(a)はb=1/3 [1210]の短い基底面転位がA層またはB層中に存在し、9時から11時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-8(b)から求めることができます。図11-4(b)はb= 1/3 [1210]の短い基底面転位がA層またはB層中に存在し、11時から3時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状の積層欠陥も図5-8(b)から求めることができます。図11-4(c)はb=1/3 [1210]の短い基底面転位がA’層またはC’層中に存在し、9時から3時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-8(c)から求めることができます。図11-4(d)はb=1/3 [1210]の短い基底面転位がA層またはB層中に存在し、9時から11時の向きに向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-8(d)から求めることができます。図11-4(a)は図11-2(c)と形状が似ています。図11-4(c)は図11-2(d)と似ています。図11-4(d)は図11-2(a)と似ています。
図11-5は、図11-1(b)の欠陥モデルでb=±1/3[2110]の場合です。図11-5(a)はb=1/3 [2110]の短い基底面転位がA’層またはC’層中に存在し、9時から1時の方向に向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-7(a)から求めることができます。図11-5(b)はb=1/3[2110]の短い基底面転位がA’層またはC’層中に存在し、1時から3時の方向に向いている際の積層欠陥です。この形状の積層欠陥も図5-7(a)から求めることができます。図11-5(c)はb=1/3 [2110]の短い基底面転位がA’層またはC’層中に存在し、1時から3時の方向に向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-7(c)から容易に求めることができます。図11-5(d)はb=1/3[2110]の短い基底面転位がA層またはB層中に存在し、9時から3時の方向に向いている際の積層欠陥です。この形状は図5-7(d)から求めることができます。図11-5(b)は図11-2(d)と似ています。図11-5(c)は図11-2(b)と似ています。図11-5(d)は図11-2(c)と似ています。図11-4、図11-5は互いに左右反転した形状になっています。
図11-2,11-3,11-4,11-5の図の中の積層欠陥の形状は同じものが幾つか出現しています。しかしながら、これらの図は連載(8),(9),(10)で現れた積層欠陥とは異なる形状をし、異なる方向を向いているので、連載(8),(9),(10)の場合とは、原因が異なるとの区別はつきます。
(E-2): ゲート構造作製プロセス
ゲート酸化膜とSiC結晶の界面には局所的に大きな応力がかかります。ゲート酸化層作製プロセスによっては、MOS界面に基底面転位が発生するかもしれません。図1-1で示しているような、SiO2/SiC界面がウエハ表面に平行に形成されている場合、SiO2/SiC界面で発生した基底面転位がn–ドリフト層へ伸びている事も想定されます。この場合、n–ドリフト層の上側から侵入してくるので、(E-1)で考察した図11-2から図11-5 の場合と同じ形状の積層欠陥が現れると考えられます。トレンチ構造の縦型MOS界面の場合は(F)で考察します。
(E-3): チップ実装プロセス
電極とのコンタクト構造を作製する際にはそれなりの圧力をMOSFET本体に付加するのでSiコア部分転位や積層欠陥が導入される可能性があります。ソースやゲートの電極とのコンタクト構造を作製する際に導入される場合は、n–ドリフト層の上から基底面転位が侵入すると考えられ、(E-1)で考察したものと同じような格子欠陥が現れるかもしれません。この場合は電極の近辺に発生するので、PL-imaging法や放射光X線トポグラフ法などで観察すると、すぐに気がつくかもしれません。
以上の考察の結果から、(A)の場合のn–ドリフト層の下側から入ってくる基底面転位から成長する積層欠陥の形状と、(E)の場合のn–ドリフト層の上側から入ってくる基底面転位から成長する積層欠陥は異なった向きを向いており、(1120)面を鏡とした互いに対称的な形をしたものが現れていることに気づくと思います
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