(D-2) c: b=1/3[2110]の貫通刃状転位とL字状界面転位の交差
次にb=1/3[2110]の貫通刃状転位と界面転位が交差する場合の例を推察します。交差によりξ= [1120], b=1/3[2110]の短い基底面転位が発生します。この状態を図10-3(a)に示します。2つの部分転位は両方ともSiコア部分転位です。この状態は図5-7(a)の12時方向の状態なので、2重菱形積層欠陥が成長します。
図10-3(b),(c)はエピ層成長プロセスの後のデバイスプロセスの際にb=1/3[2110]の基底面転位に何らかの応力が加わった場合の基底面転位の張り出しの一例です。図10-3(b),(c)はそれぞれ基底面転位opの左方向への張り出しと、右方向への張り出しの状態です。どちらの張り出しも可能です。どちらに張り出すかは、加わる応力の方向に依存します。張り出しによって基底面転位は長くなります。この両方のいずれの場合でもREDG効果によって、2重菱形積層欠陥 β、β’が成長します。つまり、b=1/3[2110]の短い基底面転位の場合、張り出さなくても、張り出しても2重菱形積層欠陥 β、β’が同様に成長します。
2重菱形積層欠陥 β, β’がREDG効果により成長した状態を図10-4に示します。図10-4(a)では、積層欠陥βは界面転位から生成した積層欠陥αと反応して一体になります。この状態を図10-4(b)に示します。積層欠陥β’の縁の部分転位mkjは遮るものがなければこのままMOSFET構造の右端まで成長を続けます。積層欠陥β’の縁の部分転位jnと界面転位のCコア刃状転位のad部分は反応を起こさず特殊な欠陥構造を形成します。この欠陥の構造は図10-4(b)の下に示しているような3本の異なるバーガース・ベクトルを持つ部分転位が平行に並んでいる状態が考えられます。3本の部分転位のバーガース・ベクトルを足し合わせると、b=2/3[1010]の特殊な基底面部分転位が出現しています。
次に、界面転位終端部がU字状転位をばら撒いた場合の積層欠陥の成長の状態を図10-4(c),(d)に示します。図10-4(d)で示されているように、積層欠陥αと積層欠陥β’の間にはb=1/3[2110]の基底面転位によるドメイン境界opが形成されると考えられます。積層欠陥のドメイン境界opは、積層欠陥aと積層欠陥β’の縁の部分転位のバーガース・ベクトルに整合性が無いことによって発生しています。つまり、積層欠陥の変位ベクトルRの向きに整合性が無いことが原因です。この構造では積層欠陥αによって出口を塞がれていなければ、積層欠陥β’の右端mkjはREDG効果によってMOSFETの右端まで積層欠陥は成長を続けます。また、ドメイン境界opのb=1/3[2110]の基底面転位の構造は、通常の四面体層A’層やC’層のすべり面に出現するb=1/3[2110]の基底面転位の構造とは異なっています。2つの部分転位の位置が入れ替わっています。ドメイン境界opの構造を図10-4(d)の下に示します。
図10-4での考察は、交差によって生成されたξ= [1120]、b=1/3[2110]の短い基底面転位からの積層欠陥の生成についての考察でした。エピ層成長プロセス後の高温でのデバイスプロセス中にこの基底面転位に何らかの応力が加わり、この基底面転位転が、張り出さなくても、張り出しても。また張り出し方が異なっても、結局、REDG効果によって同じような形状の積層欠陥が生成します。ただし、張り出さない場合は基底面転位opは短いので積層欠陥が大きく成長するまでには時間が長くなることが推察されます。MOSFETの特性劣化も遅くなって顕在化することが推察されます。
(D-2) d: b=1/3[1210]の貫通刃状転位とL字状界面転位の交差
次に、b=1/3[1210]の貫通刃状転位と界面転位が交差する場合の例を考察します。交差によりξ= [1120]、b=1/3[1210]の短い基底面転位が発生します。この状態を図10-5(a)に示します。この状態は図5-8(c)の12時方向の状態です。REDG効果によって2重菱形積層欠陥が成長します。結局、張り出さなくても、張り出しても、また、張り出し方が異なっても、同様な形状の2重菱形積層欠陥が成長します。
図10-5 (b),(c)は、(a)の短い基底面転位が、エピ層成長の後のプロセス中に、何らかの応力を受けて、少し張り出した状態を示した図です。図10-5 (b),(c)は、底面転位opの左方向への張り出しと、右方向への張り出しの状態です。張り出しによって基底面転位は長くなります。この左方向への張り出し、左方向への張り出し、両方のいずれの場合でもREDG効果によって2重菱形積層欠陥 β,β’が成長します。デバイスプロセスの際に何らかの応力を受けた場合でも、受けなくても、結局のところREDG効果によって、2重菱形積層欠陥 β,β’が成長すると考えられます。
REDG効果により2重菱形積層欠陥β,β’が成長した状態を図10-6(a)に示します。2つの積層欠陥β,β’とも界面転位から生成した積層欠陥αとドメイン境界を形成します。図10-6(b)に示すように積層欠陥a,βの間には境界deが存在します。この境界はb=1/3 [1120]の基底面転位そのものですが、通常の四面体A’層、またはC‘層中に現れるb=1/3 [1120]の基底面転位とは部分転位の配置が逆転しています。また図10-6(b)に示す 積層欠陥β’の縁の部分転位ojと界面転位abとの部分では3本の部分転位が並んでいます。積層欠陥β’の右端jkmの部分はREDG効果によってMOSFETの右端まで積層欠陥は成長を続けます。
図10-6(c),(d)は界面転位の終端部がU字状転位をばら撒いた場合を示しています。積層欠陥αとβはドメイン境界を形成しています。またαとβ‘もドメイン境界を形成しています。これらの境界構造を図10-6(d)の下に示します。
積層欠陥αによって出口を塞がれていなければ、図10-6 (d)に示すように積層欠陥β’の右端jkmの部分はREDG効果によってMOSFETの右端まで積層欠陥は成長を続けます。貫通刃状転位の位置によっては、積層欠陥β’は積層欠陥αによって出口を塞がれてしまい、積層欠陥αの中に、積層欠陥β, β’が閉じ込められてしまう場合も考えられます。
b=1/3[1210]の貫通刃状転位とL字状の界面転位の交差が原因で形成される積層欠陥について簡単に結論をまとめると、b=1/3[1210]の短い基底面転位が、張り出しても、張り出さなくても、また張り出し方にも依存せず、2重菱形積層欠陥 β, β’が現れます。最終的にいびつな形状の積層欠陥が形成され、積層欠陥の内部にドメイン構造が形成されます。
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