次に、b=±1/3[2110]の貫通刃状転位がn–ドリフト層中で折れ曲がる場合を考察します。この場合の考察の仕方も図9-5で示したb=±1/3[1210]の貫通刃状転位がn–ドリフト層中で折れ曲がる場合と同じです。b=±1/3[2110]の基底面転位の場合は図5-7を参照すると積層欠陥の形状は容易に推察することができます。
b=1/3[2110]の基底面転位の向きが9時方向から1時方向の場合を図9-6 (a),(b)に示します。図9-6 (a)は基底面転位がA’層かC’層中に存在する場合、図9-6 (b)は基底面転位がA層かB層中に存在する場合です。図9-5(a),(b)の説明と同様に図9-6 (a)の右側の六角形状の積層欠陥の右側の縁def部分はSiコア150度部分転位とSiコア30度部分転位なので、REDG効果により、このままこの積層欠陥はMOSFETの右端まで成長を続けます。同様に図9-6 (b)の左側の六角形状の積層欠陥の左側の縁defはMOSFETの左端まで成長を続けます。
b=1/3[2110]の基底面転位の向きが1時方向から3時方向の場合は図9-6(a),(b)の三角形状の積層欠陥の成長はなく六角形状の積層欠陥の成長のみが現れます。図9-5(c),(d)と同様な形状の積層欠陥が現れMOSFET構造の端まで積層欠陥は成長します。b=1/3[2110]の基底面転位の向きが7時方向から9時方向の場合は図9-6(a),(b)の六角形状の積層欠陥の成長はなく三角形状の積層欠陥の成長のみが現れます。これらの三角形状の積層欠陥は図9-4(c)や図9-4(b)と同じ形状です。そして、b=1/3[2110]の基底面転位の向きが3時方向から7時方向の場合は積層欠陥の成長はありません。これらは図5-7(a),(d)を参照すると理解することができると思います。
b=1/3[2110]の貫通刃状転位がn–ドリフト層中で折れ曲がる場合の考察も図5-7(b),(c)から理解できます。b=1/3[2110]の基底面転位の向きが、9時から1時方向の範囲の場合は積層欠陥の成長はありません。b=1/3[2110]の基底面転位の向きが、1時から3時方向の範囲の場合は、図9-4(b)や(c)とよく似た三角形状の積層欠陥が現れます。b=1/3[2110]の基底面転位の向きが、3時から7時方向の範囲の場合は、図9-6(a)や(b)とよく似た三角形状や六角形状の積層欠陥が現れます。b=1/3[2110]の基底面転位が7時から9時方向に向いている場合は、図9-5(c)や(d)に現れている六角形状の積層欠陥とよく似た形状のものが現れ、MOSFETの端まで成長を続けます。一見同じように見えて微細な部分が実はちょっと違うので、「よく似た形状」という言葉を使っています。以上はb=1/3[2110]の貫通刃状転位がn–ドリフト層中で折れ曲がる場合の考察です。
次に、一本の貫通刃状転位が異なる四面体層で複数回の折れ曲がりを持つことを考察します。図7-1(c)の状態です。同じバーガース・ベクトルを持ちながら異なる形状の積層欠陥が複数枚重なることが想定されます。成長した積層欠陥を、顕微PL法などで観察すると複数枚の積層欠陥の積層欠陥が重なり、複雑な形状を示すことが推察されます。 ここでは2回折れ曲がることを考察します。それらのいくつかの例を図9-7に示します。いろいろな場合を想定すると、形状は再現なく広がっていきます。図9-7はb=1/3[1210]の場合のいくつかの例です。
図9-7の模式図では、b=1/3[1210]の貫通刃状転位の2つの折れ曲がり部が、n–ドリフト層の真ん中の深さを想定して図を描いています。n–ドリフト層中のp層に近い側、つまり[0001]方向側に2つの折れ曲がりがある場合は、図9-7全体は、見ため、上方向、つまり[1120]方向に移動します。2つの折れ曲がりが基板に近い深さに存在する場合は、図9-7全体は下方向、つまり[1120]方向に移動します。これらの状態は2つの折れ曲がりは接近した位置にあることを想定しています。
b=1/3[1210]の貫通刃状転位の2つの折れ曲がりのうち1つはn–ドリフト層中のp層に近い側、もう一つは基板に近い深さに存在する場合、つまり2つの折れ曲がりが離れている場合は、図9-5に示されている積層欠陥のうち1つは上方向に移動し、別の積層欠陥は下側に移動して、2つの積層欠陥が重なっているような状態が観察されることが推察されることが考えられます。
まとめ
連載のこの回は、(B) n–ドリフト層中に出現することがある界面転位や、(C) 界面転位の表面終端部分が移動することによってばら撒かれることがあるU字状転位、(D-1) n–ドリフト層層中の貫通刃状転位の折れ曲がり部分などから、積層欠陥が湧き出した場合を考察しました。前回、考察し整理した基板側からn–ドリフト層へ短い基底面転位が入り込んだ場合と、今回の場合は積層欠陥の形状に違いがあります。
界面転位の発生を抑制するには、昇温、降温プロセス時にウエハの温度分布が均一になるような工夫が必要だと考えられます。貫通刃状転位の折れ曲がりは、エピ層成長の現象と関連しており、これを抑制するには高い表面ステップ広い表面テラスなどのイレギュラーなエピ層成長表面を作り出さないことを、エピ層表面全面に渡って達成する高度なエピ層成長技術の達成が必要かと推察されます。さらに、活性化アニールなどでの昇温、降温過程、高温プロセス中などで、ウエハ全体にかかる応力の抑制が必要かと考えられます。
次回は、貫通刃状転位と界面転位との交差によって生成した基底面転位から生成する積層欠陥について考察します。
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