はじめに
連載(6),(7)では、4H-SiC-MOSFETのn–ドリフト層部分にどのような転位組織が存在しているかを整理しました。これらの転位組織から、どのように積層欠陥が生成するのかを連載 (8)以降で考察しています。詳しく述べると、連載(6)では界面転位やU字状転位の発生について整理しています。この界面転位およびU字状転位から、どのような形状の積層欠陥がREDG効果により形成されるかを、この連載(9)で考察します。また、連載(7)では貫通刃状転位の折れ曲がりを考察し整理しています。この貫通刃状転位の微小な折れ曲がりから生成する基底面転位部分から生成する積層欠陥の形状も、この連載(9)で考察します。
(B) 界面転位からの積層欠陥の成長
図9-1はn–ドリフト層中に存在する界面転位からどのように積層欠陥が成長するのかを模式的に示しています。
図9-1 (a)は4H-SiCの四面体A’ 層やC’層にあるb=1/3[1120]の基底面転位が界面転位を形成した状態を示しています。ab部は主に基板(n+層部)中に存在している基底面転位です。bc部はエピ層(n–ドリフト層)中に存在する界面転位部分で基底面Cコア刃状転位です。ce部分は界面転位の尻尾の部分で、この部分はマクロ的に見ると基底面らせん転位部です。この転位はe点で表面終端しています。図9-1 (b)はREDG効果により界面転位の尻尾の部分ceの部分からc’d’部のSiコア30度部分転位が左方向つまり[1100]方向へ動き積層欠陥が成長しています。d’d部はSiコア120度部分転位で、p/n–ドリフト層界面でブロックされていて動かないと考えられます。cd部はCコア30度部分転位です。この部分も動きません。cc’部はCコア30度部分転位です。この部分も動くことはありませんが、図9-1(b)のc’d’部のSiコア30度部分転位が左方向へ動くことによって延伸されていきます。de部はp層部分の基底面らせん転位で、e点で終端しています。図9-1 (c)はREDG効果によりSiコア部分転位がこれ以上動くことができなくなった飽和状態です。この形状は、連載(8)の図8-2(a’’)と良く似ていますが、図9-1のc点のところに小さなカーブが存在し、なおかつCコア刃状転位の界面転位と繋がっているので区別はつきます。以上は四面体A’層やC’層中にb=1/3[1120]の界面転位がある場合でした。
次に、A層やB層中にb=1/3[1120]の界面転位がある場合はどうなるかを考察します。
図9-2(a)は b=1/3[1120]のL字状界面転位がA’層C’層中にある場合に積層欠陥が成長した状態です。(b)はb=1/3[1120]の逆L字状界面転位がA層B層中にある場合の積層欠陥が成長した状態です。(a)と(b)の構造はc映進対称の関係があります。転位の向きは白矢印で示していて、図9-2(a)はbc方向、図9-2(b)はcd方向と設定しています。図9-2(a)の場合と同様に正三角形の半分の直角三角形状の積層欠陥が現れます。図9-2(a)の場合と同様に連載(8)の図8-2 (b’’)と区別はつきます。図9-2(a)では転位の向きは結晶の奥から表面方向に設定しています。図9-2(b)では転位の向きは結晶の表面から結晶の奥方向に設定しています。図9-2(a),(b)の両方ともCコア刃状転位部分の転位部分の向きは[1100]方向を向くように設定しています。
(C) エピ層成長中にばら撒かれたU字状転位によるもの
次に、界面転位の表面終端部分が撒き散らしたU字状転位が存在する場合はどうなるかを考察します。
図9-3は界面転位が撒き散らしたU字状転位が存在する場合に観察される積層欠陥の成長の状態を模式的に示しています。図9-3(a)の界面転位abcと、cからdへ向かって散らばっている複数のU字状転位の底の部分の基底面転位は同じすべり面、つまり同じ(0001)面上に位置しています。U字転位の向きは、その生成過程から元々L字状界面転位abcと繋がっていた1本の転位なので、界面転位の向きは、整合するようにcからd方向と設定します。図9-3(b)は積層欠陥が成長している状態を示しています。複数のU字状転位の底の部分の基底面転位から2重菱形積層欠陥が生成し成長します。この2重菱形積層欠陥の形状は図5-6(a)での基底面転位が3時方向を向いている時の形状です。図9-3(c)は最終的にこれらの積層欠陥が合体し1枚の積層欠陥を形成します。複数のU字状転位の底の基底面転位と界面転位は同一(0001)面上に位置し、積層欠陥の縁のショックレー型部分転位は同じバーガース・ベクトルを持ち、さらに転位の向きが逆向きなので、それらのショックレー型部分転位は合体して消滅し1枚の積層欠陥を形成します。最終的にギザギザの刃がついたナイフ状の形状になります。いろいろな試料を顕微PL法で観察すると、cd’部が直線に近い微小にジグザグしたような形状のものや、フリーハンドで描いたような蛇行線のようなものもよく観察されます。このようなフリーハンドのラインのものは、微小U字状転位デブリは光学顕微鏡レベルでは存在が確認されないような小さな複数のU字状転位、つまり放射光X線トポグラフ法や顕微PL法では検出されない微小な複数のU字状転位が存在していたことを示しています。ノコギリ状のギザギザやフリーハンド状の線などの現れ方の違いは、エピ層成長条件の違いによるものではと考えられます。d’’d’の位置もいろいろなものがあります。a点に近い位置に存在しているものや、bc部に近いところに位置するものもあります。これもU字状微小転位のまき散らかれ方の差が出ます。また、U字状微小転位の一部がp層内部にある場合は、その部分では積層欠陥の湧き出しはなく、ノコギリの歯が一部欠けたような形状のものが出現します。図9-3(d)は、b=1/3[1120]の界面転位がA層B層にある場合の積層欠陥の成長の様子を示しています。
図9-2や図9-3で示される形状の積層欠陥が顕微PL法やX線トポグラフ法で観察される場合、界面転位が積層欠陥生成の原因だということは容易にわかります。
コメントを残す