b=±1/3[1210]の基底面転位のn–ドリフト層部への侵入に起因する積層欠陥の形状
最初にA‘層、C’層中のすべり面上のb=1/3[1210]の基底面転位について考察します。この基底面転位から生成される積層欠陥の形状は図5-8(c)に示されています。
図8-3 (a)はA‘層、C’層中のb=1/3[1210]の基底面転位がエピ層中にわずかに侵入して貫通刃状転位へ変換された状態を示しています。この時、基底面転位の向きは11時から3時方向の範囲にあると想定します。a点の黒丸は貫通刃状転位。(b)はREDG効果によりこの基底面転位から2重菱形積層欠陥が湧き出している状態。この図は、図5-8(c)の11時から3時方向に基底面転位が向いている時に現れる2重菱形積層欠陥を参考に描いています。
図8-3 (c)は図8-3 (b)の積層欠陥が成長し、p層へ到達した状態を示しています。左側の三角形状の積層欠陥hgaはこれ以上は成長せず成長停止状態になります。右側の五角形状の積層欠陥のcde部はSiコア150度部分転位とSiコア30度部分転位部なので、MOSFETのon-off動作を繰り返しているとREDG効果により、このまま右方向に進んで行きこのデバイスの右端で成長を停止します。cde部分は、cdの距離とdeの距離が等しく上下対称な形状で描いていますが、必ずしも上下対称になる必要はなく非対称になって現れることも考えられます。
図8-3 (d)はb=1/3[1210]の基底面転位の向きが9時から11時の方向の範囲の時に現れる積層欠陥を示しています。この図は図5-8(c)を参考にして描いています。この積層欠陥は、図8-3(c)の右側の五角形の積層欠陥と同じ形をしています。図8-3 (c)の積層欠陥と同じように、cde部分は、REDG効果によりこのまま右方向に進んで行きこのデバイスの右端で成長を停止します。
次に、四面体A層、B層中のすべり面にのっているb=1/3[1210] の基底面転位がn–ドリフト層中にわずかに侵入した状態を考察します。この状態は図5-8(b)から予測することができます。b=1/3[1210] の基底面転位が11時から3時の方向を向いていると2重菱形積層欠陥が現れます。この状態を考慮して図8-3(e),(f),(g)を示します。図8-3 (f),(g)では2重菱形積層欠陥の右側の積層欠陥はn+層に張り出すことになり、n+層では成長しにくいことになっています。図8-3(g)では左側の積層欠陥が成長しp層に到達し、五角形状の積層欠陥が現れている状態を示しています。この五角形状の積層欠陥の左端はSiコア30度部分転位と150度部分転位により構成されていて、REDG効果によりこの部分は左方向に移動し積層欠陥はデバイスの左端まで成長していきます。
図8-3(e),(f),(g)ではb=1/3[1210] の基底面転位が11時から3時の方向を向いている場合を考察しました。図5-8(b)を見るとb=1/3[1210] の基底面転位が9時から11時の方向を向いている場合、菱形積層欠陥1つが成長することを示しています。図8-3(h)はb=1/3[1210] の基底面転位が9時から11時の方向を向いている場合の積層欠陥を示しています。この積層欠陥は、図8-3(g)に示しているものとほぼ同じものです。図8-3(g)では基底面転位の右側に小さな積層欠陥が付属しているので、完全には同じではありません。
A層またはB層のすべり面上のb=1/3[1210]の基底面転位の場合は、図5-8(d)に示されています。b=1/3[1210]の基底面転位が11時方向から3時方向の範囲では、部分転位はいずれもCコア部分転位なので、積層欠陥の成長はありません。この基底面転位が9時方向から11時方向の範囲では積層欠陥はn+層方向に向かって成長することになるので小さな積層欠陥の形成はあるかもしれません。形状としては、図8-2(d’)と似た小さな積層欠陥の成長はあります。ただし図8-2(d’)で示しているものとは部分転位のバーガース・ベクトルが異なるので別物です。この小さな積層欠陥の成長はすぐに停止します。
A’層またはC’層のすべり面上のb=1/3[1210]の基底面転位の場合は、図5-8(a)に示されています。b=1/3[1210]の基底面転位の向きが11時方向から3時方向の範囲では積層欠陥の成長はありません。この基底面転位が9時方向から11時方向の範囲では菱形積層欠陥の成長があります。その積層欠陥の形状は図8-2(a’),(a’’)と同じです。ただしバーガース・ベクトルの向きと部分転位の向きが逆です。そして貫通刃状転位の位置が異なります。形状は同じですが、貫通刃状転位の位置が異なる事と、発生する際の基底面転位の向きが異なるので、別物の積層欠陥とみなしておきます。
以上は、b=±1/3[1210]の基底面転位がn–ドリフト層中に残存したために形成される積層欠陥の形状についての考察でした。
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