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コラム 解説

増殖・成長する積層欠陥とMOSFETの特性劣化 (3)
〜 基底面転位ループのバリエーション 〜

図3-5(a)の基底面転位ループは、図3-3(b)b=1/3[1120]の転位ループそのものです。図3-5(a)b=1/3[1120]の転位ループに(1120)面での鏡映操作を行うと、図3-5(b)の転位ループが現れます。図3-5(b)の転位ループのバーガース・ベクトルをFS/RHの取り決めに従って調べるとb=1/3[1120]であることがわかります。この転位ループの構造は、連載その(2)で示したA’層中の b=1/3[1120]の基底面転位ループと比較すると、構造が異なっています。内側と外側の部分転位のループのバーガース・ベクトルが入れ替わっています。

さらに、図3-5(a),(b)の基底面転位ループを120度反時計方向に回転させると、A層中のb=1/3[2110]、b=1/3[2110]の基底面転位ループの構造を得ることができます。これらを図3-6(a),(b)に示します。同様に、図3-5(a)(b)の基底面転位ループを240度反時計方向に回転させると、A層中のb=1/3[1210], b=1/3[1210]基底面転位ループの構造を得ることができます。これらを図3-7(a),(b)に示します。

以上より、同じバーガース・ベクトルを持つ基底面転位ループでも、転位ループの構造、つまり部分転位への拡張の仕方は、転位ループがどの四面体層中にあるのかによることがわかります。そして、危ないSiコア30度や150度部分転位、つまりSiコア部分転位が転位ループのどの位置に出現するのかは整理することができました。

図3-5 (a) A層中に存在するb=1/3[1120]の基底面転位ループ。図3-3 (b)と同じものを描いている。 (b) A層中に存在するb=1/3[1120]の基底面転位ループ。

以上で、A‘層中の転位ループからA層中の6つの転位ループを導くことができました。次に、C’層や、B層中で現れる転位ループの構造を考察します。

C’層中での基底面転位ループでの部分転位のバーガース・ベクトルの配置や部分転位のコア構造の配置についてはA’層中の場合と同じです。A’層とC’層でのすべり面の上下のC原子とSi原子の配置は、図1-5(b)に示されていて、四面体の向きが同じであることは理解されると思います。C’層中のすべり面の上下のC原子とSi原子の配置は、A’層の場合と同じです。A’層では基底面完全転位が分解すると、Cがショックレー型積層欠陥としてA’層中に出現しますが、C’層の場合、四面体Bが積層欠陥部に現れます。このことを図3-8に示します。このことは、過去の記事、フランク型積層欠陥 (1)で積層の掟として示しています。詳しく知りたい人はこの過去記事を読むことをお勧めします。四面体Bが積層欠陥部に現れること以外は、部分転位に分解した基底面転位ループの構造は、A’層の場合とC’層の場合は同じです。

B層中のすべり面の上下のC原子とSi原子の配置は、A層の場合と同じです。図1-5(a)に示されていて、四面体の向きが同じであることは理解されると思います。B層中での基底面部分転位のバーガース・ベクトルの配置や部分転位のコア構造の配置、つまり、部分転位に分解した基底面転位ループの構造についてはA層中の場合とB層中の場合は同じです。ただし、B層中で基底面完全転位が分解するとC’が積層欠陥部に現れます。このことも図3-8に示します。

図3-9 (a)にC’層に現れるb=1/3[1120]の基底面転位ループの構造を示します。C‘層では積層欠陥部に四面体Bが現れます。Siコア部分転位、Cコア部分転位の配置は、A’層のb=1/3[1120]の基底面転位ループの構造と同じです。つまり図2-4と同じです。C’層の他のバーガース・ベクトルの基底面転位のループの構造も、積層欠陥部に四面体Bが現れること以外はA’層の場合と同じです。図3-9 (b)に B層に現れるb=1/3[1120]の基底面転位ループを例に示します。A層に現れるb=1/3[1120]の基底面転位ループと同じ構造ですが、B層では積層欠陥部に四面体C’が現れます。B層で現れる他のバーガース・ベクトルの基底面転位ループの構造もA層のものと同じですが、B層では積層欠陥部に四面体C’が現れるところは異なります。ちなみに図3-9 (a)(b)の構造はc映進対称の関係にあります。

図3-6 四面体A層中に現れる(a) b=1/3[2110], (b) b=1/3[2110]基底面転位ループの構造。
図3-7 四面体A層中に現れる (a) b=1/3[1210], (b) b=1/3[1210]基底面転位ループの構造。
図3-8 SiCの積層の掟。詳しくはフランク型積層欠陥の連載(1)を参照。C‘層で出現するショックレー型積層欠陥は四面体Bで構成されている。B層で出現するショックレー型積層欠陥は四面体C’で構成されている。
図3-9 (a) C’層に現れるb=1/3[1120]の基底面転位ループ。C‘層では積層欠陥部に四面体Bが現れる。(b) B層に現れるb=1/3[1120]の基底面転位ループ。B層では積層欠陥部に四面体C’が現れる。

以上で、各四面体層中での各バーガース・ベクトルで、どのような時にSiコア30度部分転位と150度部分転位が現れるかは整理されたと思います。同じバーガース・ベクトルの基底面転位ループでも転位ループの内側と外側の部分転位のバーガース・ベクトルが入れ替わる2種類の異なる転位ループの構造が存在することは注意が必要です。バーガース・ベクトルの方向は6方向あり、部分転位への分解の仕方は2種類あるので、4H-SiCの基底面転位ループには6 x 2=12種類の異なる基底面転位ループの構造があることがわかります。次回以降はこの整理をもとに、REDG効果によって、どのようのショックレー型積層欠陥が成長するのかを考察します。次の連載では同じバーガース・ベクトルを持つ基底面完全転位でも2種類の異なる方向を向いた形状の積層欠陥が湧き出すことを示します。

今回、12種類の基底面転位ループを示しました。これらの転位ループでは転位の向きを時計回方向に設定しています。これらの基底面転位ループでは転位の向きの設定には任意性があります。転位の向きを反時計方向に設定すると、すべてのバーガース・ベクトルの向きは逆むきになります。転位の向きとバーガース・ベクトルの向きが逆になっても、Siコア部分転位はSiコア部分転位のままで、Cコア部分転位はCコア部分転位のままで、基底面らせん部分転位は基底面らせん部分転位のままです。

ちなみに、今回、示した12種類の異なる転位ループの構造は、REDG効果を考察する以外にも、色々な目的に利用可能です。放射光X線トポグラフ法、透過型電子顕微鏡法、顕微PL法を用いて4H-SiCの基底面転位、ショックレー型積層欠陥などを観察した際に、基底面転位の同定や確認にこの転位ループの表は威力を発揮します。12種類の異なる転位ループの構造の整理は利用価値が高いので、ここでは少し詳細に説明しました。

連載の次の回で、これらの部分転位からどのような形状の積層欠陥が湧き出すのかを整理、考察します。

(つづく)

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