A’層中でのb=1/3[1120]転位ループ
上に説明したように完全結晶の場合、(1120)面を用いて結晶全体を鏡映反転させても、反転させる前と同一の構造が出現します。このことは、何らかの格子欠陥を含んだ構造を(1120)面を用いて鏡映反転させると、その構造もまた結晶中に存在可能なことを意味しています。図2-6 (a)は図2-4と同じA‘層中のb=1/3[1120]の転位ループです。図2-6 (b)は (1120)面を用いて図2-6 (a)の転位ループを鏡映反転した基底面転位ループです。
図2-6 (b)の転位ループの方向ξを時計回りに設定し、FS/RHの取り決めにより各部分転位のバーガース・ベクトルを求めるとb=1/3[0110], b=1/3[1010]になります。図2-6 (b)の転位ループのバーガース・ベクトルを調べると最終的にA‘層中のb=1/3[1120]の転位ループであることがわかります。図2-6 (a)の転位klはSiコア30度部分転位ですが、この欠陥の構造を鏡映反転変換した図2-6 (b)の転位opはSiコア150度部分転位に変換されています。
図2-6 (a)の転位の向きがξ=±[1120]の場合、Siコア部分転位klやbcは積層欠陥の左側、つまり[1100]側に位置しています。図2-6 (b)のb=1/3[1120]転位ループの場合でも転位の向きがξ=±[1120]の場合、Siコア部分転位opやstは積層欠陥の左側、つまり[1100]側に位置しています。図2-6 (a)や図2-6 (b)のξ=±[1120]の部分では、Cコア部分転位、ef、 hi、qr、xvは積層欠陥の右側、つまり[1100]側に位置していています。(1120)面で鏡映反転しているのでこれらの左右の位置関係はそのままです。
蛇足的な話ですが、図2-5に示すように4H-SiCには3回の回転軸が存在しています。図2-6 (a)のSiコア150度部分転位ghのコア構造を120度反時計周りに回転させると図2-6 (b)のSiコア150度部分転位opのコア構造と一致します。図2-6 (b)のSiコア30度部分転位stのコア構造を120度反時計周りに回転させると図2-6 (a)のSiコア30度部分転位faのコア構造と同一構造になります。図2-6 (a)のSiコア30°部分転位klのコア構造を120度反時計周りに回転させると図2-6 (b)のSiコア30度部分転位vwのコア構造と同一構造になります。このような関係をさらに色々と見つけ出すことは可能です。
また、図2-6 (a)のSiコア150度部分転位bcのコア構造は図2-6 (b)のSiコア150度部分転位opのコア構造と同一の構造です。転位の向きξの設定が逆になっているのでバーガース・ベクトルの向きが逆になっているのです。同様に、図2-6 (a)のSiコア30度部分転位klのコア構造は、図2-6 (b)のSiコア30度部分転位stのコア構造と同一になります。同様な話をさらにいろいろと見つけ出すことができます。
回転操作や並進操作では、転位の向きξと転位のバーガース・ベクトルbとのなす角度の関係は保存されるが、鏡映反転操作や映進操作では、この角度関係は保存されていないことは気づくと思います。例えば、鏡映反転操作によって、Siコア30度部分転位はSiコア150度部分転位に変換されています。これは[0001]方向から見た場合この解説文では常に基底面転位ループの向きは時計回り方向に設定するように決めているからです。鏡映反転操作が含まれると変換操作後、常にFS/RHの取り決めに従ってバーガース・ベクトルの向きを確認すると混乱しないと思います。そして、鏡映反転操作や映進操作でも、Siコア転位は変換後もSiコア転位です。Cコア転位は変換後もCコア転位です。
図2-6(a),(b) で現れているSiコア30度部分転位、Siコア150度部分転位がREDG効果を引き起こし、ショックレー型積層欠陥を増殖させます。増殖するショックレー型積層欠陥の形状は、これらのSiコア部分転位がどういう条件の時に出現するかに依存します。それらを系統的に考察するために、他のバーガース・ベクトル、他の四面体層の転位ループの構造も考察し整理します。この連載の次回では、図2-4の転位ループを色々と対称操作を用いて変換する話が続きます。
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