はじめに
4H-SiC-MOSFETでon-off動作を行なっていると、on抵抗が次第に増大することがあります。この現象を順方向特性劣化と呼んでいます。この解説文は、この現象を克服することに興味を持っている人を対象に書いています。
特性劣化を引き起こしたMOSFETを、顕微PL法や放射光X線トポグラフ法で観察すると、ショックレー型積層欠陥が、MOSFETのn–ドリフト層 (p-i-n構造のi層)中で多量に生成・増殖していることが観察されます。これらは、n–ドリフト層に存在していた基底面転位から湧き出して成長した積層欠陥です。これらの生成・増殖するショックレー型積層欠陥の形状を調べると結晶学的なルールに従っていることについて説明をすることがこの一連の解説のシリーズの前半部分の目的です。このルールを理解すると、どういう素性の基底面転位が問題を起こしているかが判明するかもしれません。どういう素性の基底面転位が問題を起こしているかがわかるとデバイスプロセスの改良などで、色々と対策が取れるかもしれません。というお話をこの解説のシリーズの後半部で考察します。
順方向特性劣化はSiコア30度部分転位が動くことによって発生すると言われています。連載のこの回は、まず基底面完全転位が基底面部分転位に分解している構造について説明します。分解した構造から、Siコア30度部分転位がどういう転位かは理解できると思います。そして、A’層のすべり面にb=±1/3[1120]の基底面転位が存在するときに、どういう状態の時にSiコア30度部分転位が出現するのかを考察します。
A‘層のb=1/3[1120]の基底面らせん転位の分解
4H-SiCの基底面完全転位のバーガース・ベクトルの長さは結晶周期構造の単位である単位胞の一辺の長さと同じですが、実際にはこのバーガース・ベクトルより小さなバーガース・ベクトルを持つ基底面部分転位に分解した構造になっています。この分解した構造を考察します。
例としてA’層のすべり面を取り出してみます。A’層のすべり面の直上のSi原子層とすべり面直下のC原子層を[0001]方向から眺めてみます。図2-1のようになっています。A’四面体の底面のC原子を黒丸、A’四面体の中心位置のSi原子を白丸で示しています。この図は格子欠陥が無い完全結晶の状態を示しています。A’四面体の底面は正三角形状でグレーの三角形で示しています。グレーの三角形の角の一つは図の左側方向つまり[1100]方向を向いていて、グレーの三角形の辺の一つは右側方向つまり[1100]方向を向いています。
導入される基底面完全転位のバーガース・ベクトルはb=1/3[1120]をここでは一例として設定します。4H-SiCの結晶中ではこのバーガース・ベクトルを持つ基底面転位は、
1/3[1120] =1/3[0110] + 1/3[1010]
と2つのショックレー型部分転位に分解しています。上の式は、この1周期よりも短い結晶格子のずれに分解している状態が2つ組み合わさって1周期分のずれを形成している状態を示しています。そして、2つの部分転位の間にはショックレー型積層欠陥が発生しています。この分解した構造を図示します。A’層中のすべり面上に基底面転位が存在していることを想定し、基底面完全転位と基底面部分転位の向きはξ=[1120]を想定し、b=1/3[1120]の基底面完全転位が2つの部分転位に分解した状態を次の図2-2に示します。この図は図2-1の状態に2つの基底面部分転位を導入した状態です。
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