地球温暖化に伴う発電施設の脱炭素化に関する記事、夏の電力不足に関する記事、世界的化石燃料の高騰に伴う電力料金の高騰に関する記事など、昨今、ニュースや新聞等で電力に関する記事がよく現れます。
これらの記事の中には電力に関する内容を記述するのに適切ではない文章が散見されます。よく指摘されることは、キロワット[kW]とキロワット時(アワー)[kWh]と言う単位の使われ方です。以下にあるネット記事を引用します。
この文章の表現「容量58.58キロワットの蓄電池を使えば、100ワット[W]の裸電球なら、58,580 ÷ 100で585時間点灯出来ます。」には問題があります。
キロワット [kW]と言う単位は、仕事率と呼ばれ、瞬間的な電力の大きさ、即ち単位時間当たりに処理されるエネルギー (P) を表す物理量で、(Wikipedia)電池を何時間使えるかを表してはいません。一方、蓄電池に蓄えられているエネルギーの単位はキロワット時で示されます。これは、仕事量、電力量、又はエネルギーの単位です。上記の引用記事で、電球の点灯時間を計算する式は、
E / P = T です。
Eは電池に蓄えられているエネルギー:単位 キロワット時
Pは電球が単位時間当たり消費するエネルギー、仕事率: 単位 キロワット
Tは電球の点灯時間:単位 時間
つまりこの例の場合は、「容量58.58キロワット時(E) の蓄電池を使えば100ワット(P) の裸電球なら、58,580÷100で585時間(t) は点灯できます。」が正しい表現ということになります。
さらにもう一つ別の例を見てみましょう。これは産経新聞(2022年5月6日)の記事ですが、洋上風力について下記の通りの内容を披露しています。
先の第1の記事では単に「キロワット時」を「キロワット」と言い間違えただけとも言えるのですが、こちらの記事では「キロワット時」は露わには出てきませんが、瞬時値である電力の値をそのままエネルギー量として捉えているとしたら大きな誤りとなります(そうでないとしても、大きな誤解を与える表現です)。原子力発電所の供給できる電力量は同じ電力(パワー)を発生する洋上風力のほぼ三倍に達すること(風力発電では、停止している時間帯もあり、平均して原子力の3分の一の電力量しか送り出せない)を忘れてはなりません。瞬時値である電力とその積分値である電力量を明確に区別しなければなりません。ここでは、「原発10基分に当たる約1千万キロワット」としていますが、瞬時値の電力としては原発10基分に当たるのは確かですが、風力発電の場合は風の息を考慮する必要があって連続発電は不可能であるため、結果として発電電力量、即ち利用可能なエネルギーとしては設置場所によって異なるものの、原子力発電の約三分の一程度であることには留意する必要があります。
次回では、この二つの単位を誤って使用したために、おかしな議論になっている上記の様な例を詳細に解説したいと思います。