近年、SiCやGaNを超える次々世代のパワー半導体材料候補として、酸化ガリウム(Ga2O3)が注目されている。最近の応用物理学会誌2021年5月号にNICTの東脇正高氏の解説が掲載された。また、IEEE Spectrum 2021年4月号にも”The Supercharged Semiconductor”と題して、そのSuperchargedな魅力が語られている。
パワーデバイス用半導体としてのGa2O3の魅力は、実用化が進むSiCやGaNの次世代のパワー半導体と比べても更に高い絶縁破壊電界を持つことである。SiCやGaNの絶縁破壊電界が3MV/cm程度であるのに対し、Ga2O3では7MV/cmを越えると言われている。この小文では、Ga2O3の高い絶縁破壊電界を生かして高性能の次々世代パワーデバイス実現するために解決すべき課題を考える。
Ga2O3にはいくつかの結晶相があり、そのうちα相とβ相がパワーデバイスに向けて研究開発が進められている。両者は結晶成長方法が大きく異なるが、以下の議論に関わる物性値にはさほど差がないので、これ以降、大括りにGa2O3と記述することとする。
パワーデバイスにおいて絶縁破壊電界がどういう意味を持つか復習しよう。モデルとして1次元p+/n–接合を考える。n–層は均一ドーピングとする。縦型MOSFETであれば、pベースとnドリフト層の接合に相当する。デバイスはOFFで、逆バイアスされたpn接合が空乏化している状態を考えよう。n–ドリフト層の電界分布は、深さの一次関数となり、pn接合面位置で最大値、空乏層端で0となる。図のようにpn接合面位置を原点としてx軸を深さ、y軸を電界強度としてグラフを描けば、直線の傾きがドナー濃度に相当し、y軸切片(接合面の電界強度)を「高さ」、x軸切片(空乏層深さ)を「底辺」、とする直角三角形の「面積」が接合にかかる全電圧に相当する。絶縁破壊電界が大きな半導体材料が使えれば、半導体中の最大電界(三角形の高さ)を高くすることができて、それに応じて空乏層(底辺)を短くしても同じ耐圧(面積)が得られることになる。例えばGa2O3デバイスをSiCデバイスの3倍の最大接合電界で設計すると、ドリフト層濃度を9倍に上げつつ、ドリフト層深さが1/3ですみ、移動度が同じならドリフト層抵抗を1/27に下げられる。まさに桁違いの性能向上が期待できる。Ga2O3がThe Supercharged Semiconductorと呼ばれる所以である。もちろん良い話ばかりではない。Ga2O3の熱伝導率が小さくデバイス損失の放熱が厄介なこと。また、半導体として重要な伝導型制御に関しn型は幅広い濃度範囲で作れるが、p型がまだできていないという課題が上記解説でも触れられている。
コメントを残す