はじめに
4H-SiCでMOSFETを作製して、on-off動作を続けると、on抵抗が徐々に増大する現象、”順方向特性劣化”が発生することがあります。特性劣化を起こしたMOSFETを放射光トポグラフ法や、顕微PL法で観察すると、REDG効果により大面積のショックレー型積層欠陥が多数成長していることが観察されます。この連載は、そのように成長するショックレー型積層欠陥の形状を調べると、積層欠陥生成の原因となった基底面転位の素性を知る事ができますという話を解説しています。デバイスプロセスの改善の一助になるかもしれません。
前回の連載から、4H-SiC-MOSFETのn–ドリフト層内部で転位組織がどうなっているかを考察しています。n–ドリフト層はCVDによるエピ層成長により形成されています。前回は、n–ドリフト層の下側の基板からドリフト層に入ってくる基底面転位や、界面転位と界面転位が原因となるU字状微小転位組織の場合を考察しました。この回は、n–ドリフト層内部で発生する基底面転位を考察します。次に、n–ドリフト層の上側からn–ドリフト層へ導入される基底面部分転位などを考察します。
(D)貫通刃状転位の折れ曲がり
D-1. 貫通刃状転位の折れ曲がり
エピ層成長時に大部分の基底面転位は貫通刃状転位に変換されるという話を連載(6)で書きました。貫通刃状転位は特性劣化の原因にはならないので、これは良いことです。しかし、貫通刃状転位はエピ層成長中ずっと貫通刃状転位の状態かというとそうでもなく、図7-1(a)に示すような折れ曲がりが発生する場合もあると考えられます。すべての貫通刃状転位がこのように折れ曲がるわけではありません。
図7-1 (a)で示されている折れ曲がり部分bcは基底面転位です。この部分が短い場合でも、エピ層成長後の高温でのデバイスプロセスでエピ層部に応力が加わると図7-1 (b)に示すような転位の張り出しが生じるかもしれません。また、図7-1 (c)のように折れ曲がりが複数回発生することも考えられます。この場合、複数個の短い基底面転位部分がエピ層中に出現します。同じバーガース・ベクトルを持つ1本の貫通刃状転位でも、折れ曲がりにより形成される基底面転位が異なる四面体のすべり面上にある場合、形状が異なる複数の積層欠陥が1本の転位から湧き出してくる可能性はあります。
貫通刃状転位は厳密にc軸方向に向いているわけではありません。蛇行しながら成長表面に対してほぼ垂直方向に成長しています。蛇行している場合、微細構造を見るとギザギザしていて短い基底面転位が存在している部分もあるかもしれません。
ちなみに、GaNのエピ層成長の場合、サファイア傾斜基板の傾斜角が大きいと、GaNのエピ層表面に大きなステップテラス構造が現れます。高いステップと広いテラス構造が発生すると、ステップの麓には歪み場が形成されます。このステップの麓部の格子歪みと貫通刃状転位の周りの格子歪みが相互作用を引き起こします。大きなステップテラス構造がステップフロー成長によってゆっくりと移動しながらエピ膜成長すると、貫通刃状転位も表面ステップの麓の部分に引きずられたり、押し出されたりして貫通刃状転位に曲が生じます。つまり貫通刃状転位がステップフロー方向に向かって曲がっていくことは観察されています。
また4H-SiCの結晶成長でもCを含むSi融液にSiC傾斜基板を種結晶として結晶成長させると各種貫通転位はステップフロー方向に引きずられて基底面に沿って成長し、貫通らせん転位はフランク型刃状転位へ変換される事などは報告されています。
同様の理由で、SiCのエピ層成長の場合、成長表面に高いステップと広いテラスを伴うイレギュラーな表面構造が発生すると、貫通刃状転位に曲がりが導入されることも推察されます。また、エピ層表面での谷状や扇状地状のマクロな表面の凹凸形成も貫通刃状転位の曲がりの原因になる可能性はあります。エピ層表面でのこれらのイレギュラーな構造は、以前の解説文“4H-SiCのエピ層表面の欠陥のSEMによる観察”で示したような各種エピ欠陥が発生した場合、その近くの、ステップフローの川下側領域などでも発生します。
ここまで、n–ドリフト層内部で発生する貫通転位の折れ曲がりについて考察しました。これらの折れ曲がりによる基底面転位部分は長さが短い場合でも、後に行われる、例えば活性化アニール、熱酸化プロセスなど、あるいは昇温、降温プロセス、高温での圧力が加わるプロセスなどで、図7-1(b)に示すように、長い基底面転位が短い基底面転位から張り出してくる可能性はあります。それほどの高温ではない場合でも、応力が加わるようなプロセス、オーミック接合プロセス、チップ実装プロセスなどでも、Siコア部分転位が張り出す可能性はあります。これらは積層欠陥成長の原因になるとも推察されます。
高耐圧用MOSFETのような場合、エピ層成長部が厚くなります。エピ層成長部が厚くなると、ウエハのお椀状変形に起因するエピ層部の格子歪みも蓄積されていきます。この場合、貫通刃状転位に変換されていた転位がエピ層成長中に基底面転位に戻り、エピ層中の格子歪の緩和の役目を担うと考えられます。この役目はb=a/3[1120]の転位が担います。この基底面転位はL字状、逆L字の形状を持つ界面転位の形状に変化していくものと考えられます。これらの基底面転位は、前回の連載の界面転位と関連した基底面転位(B),(C)と同じようなものと分類しておきます。
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